バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

クラスメヱト

32 帰り道、一つの真実

「先に断っておこう。黒波保険医は我々の味方だ」そう前置きをする朝霧は、一人で下校しようとしていた暁を捕まえて共に河川敷を歩いていた。陽は長くなってきたが、夕日が沈むにはまだ早い。「その上で、黒波保険医はあえて敵のふりをしている。君たちを本…

31 風紀委員の憂鬱

人は規律なしでは生きていけない。五月雨の持論だ。しかし、人は自分を守るはずの規律に背きたがる。「……」休憩室に立ち寄り、エナジードリンクを喉に流し込む。刺激が口を通って喉を襲うが、胃に落ちたそれにもはや反抗思想はない。 先ほど出会った生徒を思…

30 校則は守りましょう

「やぁ、水城君、千鳥君」「陣内!?」久しぶりの朝霧の登場に驚く二人。暁から仲間になると説明があると更に驚いた。 「どういう風の吹き回しだ?」「なぁに、単純なことさ、この裏にはびこる野望に抗う小さな力に、知恵を貸し与えたいだけなのだ」嘘だな。…

29 予想以上のお手前で

今まで光の屈折で見えなかったレンズの群れが、朝霧の周りに現れる。 「見事だ、遠賀川くん。私の見立ては間違っていなかった」 敵意が消えたのを確認し、暁は「仮面」を仕舞う。 「私はこのレンズで敵を分析するのを得意とする。しかし攻撃に乏しくてね。今…

28 音と情報

人目につかない河川敷の橋の下を選んだ二人は、お互いに正面に向き直る。 「時間無制限一本勝負。私の「仮面」を見抜くことができれば君の勝ちとしよう」 「それだけ「ばれない自信がある」ということだな。分かった」 互いに二歩ずつ下がり、暁は胸に手を置…

27 天才少女の挑戦状

休日は家で過ごすと決めていたのだが、久しぶりに外に出た暁。 心地よい雑音が欲しかったのだ。静かばかりでは落ち着かない。 まわりのあらゆるものを「音」でとらえる暁の力。 暁は、この力をよくは思っていなかった。 聞こえると言っても信用されない音の…

26 天才故の期待

「ただいまー」 間延びした声で朝霧は玄関のドアを開ける。 「おかえり」 台所で炊事をしていた母が駆け寄る。 「今日の講義はどうだった?」 「面白かったよ」 適当に返事を返し、自室へと上がる。今日、大学に行かずに普通に高校に向かってたことは内緒だ…

25 登校しない女生徒

「あいつ、陣内朝霧っていうんだけどよ、俺たちとは比べ物にならねぇ位頭がいいんだ」 帰路についた雲外と虚空は、先ほどの眼鏡の女生徒の話を暁にしていた。 「噂だけど、入学したての時に受けたクラス分けテストを五分で解いて、裏に図形を描いて遊んでい…

24 天才少女

「暁ー、虚空ー」 いつものように二人の肩を叩く雲外。徐々にではあるが、虚空はそれに顔をほころばせることができるようになっていた。 「今日の数学、分かったか?」 「お、己はさっぱり……」 「教えてほしいんだろう。ノートはとってある」 ノートを取り出…

23 友達

翌日、いつも通り登校した遠賀川は、教室に水城と千鳥の姿を見て歩いていった 「おはよう、暁」 「おなよう」 「お、おはようございます」 千鳥はまだ小さく震えている 「……あっ」 千鳥の声に気が付き、暁は振り返った そこには千鳥と目があった相模の姿 彼…

22 気弱な仮面

「そう、ですか。僕は貴方たちを傷つけようと……」 意識が回復した千鳥は、遠賀川と水城の説明を受けてそう呟いた 「幸い誰も怪我はしていない。安心しろ」 「ご迷惑をおかけしました」 「……千鳥」 遠賀川が声をかける 「近くに相模が転がってるのを見たんだ…

21 襲い来る言葉

「「「矛盾」表裏の仮面」!」 水城の周りに光が走る やがてそれは、手を象ったオブジェと仮面に姿を変え、彼女の顔の半分にも仮面があてがわれた それを見届けて遠賀川も手を上げる 「「「隔絶」無知の仮面」」 彼の周りにさっと白い紙が伸びる 千鳥は二人…

20 言えないこと

「なぁ、暁」 日が暮れた街を遠賀川と水城は歩く 「もしその、「仮面」を持つ者を見つけたとして、俺は何をすればいいんだ?」 「経験則だが、気絶させれば「仮面」は消える。でも、完全じゃない。お前の中にも「仮面」は残ってるんだろ?」 「ああ。うまく…

19 言葉の呪い

宙を歩いているようだった ふわふわと足取りもおぼつかなく、彼は歩く 「おい」 不意に後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、彼はびくりと震える 振り向いた先にはやはりそいつがいた 「相模君……」 相模は素行も態度も最悪な学生だった そして彼――千鳥は相模に…

18 文学少年と聴衆少年

「千鳥」 暁はノートを渡しながら言った 目の前にいる男子生徒は黒髪黒目の大人しい少年だ 千鳥虚空。彼は運動よりも本を愛する少年である 「数学のノート。相模が返してくれって」 「あ、ありがとう」 ノートを受け取り、ページを開く千鳥。しかし、すぐに…

17 風紀委員と男装女子

「なぁ、暁」 水城は遠賀川に近づく 「要するに、俺たちみたいに変なものが浮いてるやつは危ないから、自分たちの力で取り押さえろってことか?」 「今はそれだけ分かってくれればいい。詳しいことは俺にも分からんが、その解釈だけは合っているようだ」 「…

16 決断

「おはよう、暁!」 翌日、水城はいつもと変わらない態度で遠賀川に近づいてきた 「……下の名前で呼ぶんだ」 「嫌か? 俺は親しい感じがして好きだけどな」 「おはよう、水城さん、遠賀川さん」 「おはよう、椎奈!」 その笑顔はいつもと変わらないので、遠賀…

15 自分の価値

「目が覚めたか、水城」 「んぁ……?」 水城は見慣れない天井を見上げたままベッドに寝かされていた 遠賀川は片時も離れずに水城を眺めていた 「あれ、俺、学校の前あたりまできて……」 「そこから先は覚えてないんだな」 遠賀川は水城にせまる 勿論「不協和音…

14 遠賀川の力

自分に力が備わっているのはなんとなく分かっていた しかし、この力をどう使えと言うのか 迷ってる間に狼は前足で遠賀川を潰しにかかってきた 転がる様にかわすも狼は後を追ってくる (どうすれば……) 遠賀川は走りながら考える そのとき、ふと彼の視界に何…

13 覚醒

遠賀川は目の前の金色の狼に驚いていた 手を模した謎のオブジェがくるくると狼の首を周る 狼の顔には半分だけの仮面が付けられていた 一目見て超自然的な現象だというのに、遠賀川は少し驚いた程度で、そのまま狼の前に立っていた 『どうすればいいか分かん…

12 通りがかり

「……」 今日は星がきれいだと聞いた それだけで雑踏の中を力強く歩くことができた 「不協和音」に耐えながら歩くのはきついものがあったが 「……?」 ふと、聞いたことある音がした気がして横を見る 雑踏を無理矢理裂いて走るそれは見たことのある姿で 見たこ…

11 男になりたかった少女

彼女は悩んでいた どうにかして男らしくなりたかった しかし、古いしきたりの家族の前でそんなことを言えば、平手が飛ぶのが明白だった 「開けるぞ、雲外」 そう言って水城の部屋を、彼女の父が開けてずかずかと入ってきた 「な、何の用ですか、お父さ――」 …

10 らしさ

「……ただいま」 水城は暗い声でそういうと、玄関から上がってきた 「おかえり」 笑いながら母はこちらを見たが、水城は無視して上の階へと上がる 鞄をベッドに投げ、身も投げた 見慣れた天井が視界に広がる 「……着替えなきゃ」 水城はしぶしぶ起き上がると、…

9 遊び

「やっぱり水城は男役が安定しているな!」 部活仲間の褒め言葉を素直に受け入れて喜ぶ水城 「あざっす!」 「でも、たまには女の子の役もしたくないの?」 「俺は男になりたいんだ。それがかなうのは演劇だけだからさ」 「水城さん、そろそろ帰りましょう?…

8 「仮面」

目の前に出されたお茶をすすり、遠賀川は黒波を見る 「アイデンティティについて、勉強はしているわね?」 アイデンティティ。すなわち自己同一性。そこにいる自分は変わらず自分であるという証明である。 主に高校生前後で揺らぎが生じ、そして確かなものへ…

7 保健室で

お客様 ついに目覚められましたな お客様はこれから壮大で邪悪なものと戦わなくてはなりません その前にお教えしましょう 貴方の「仮面」につけられし名は―― 「……あれ」 目が覚めると、そこは見たことのない天井だった 視線を巡らせると、薄いカーテンが周り…

6 筆と紙

遠賀川の周りに巻物のような長い紙が現れ、彼を取り囲んだ 頭上には筆が回っている 「第一形態は初めて見る形だった……。気をつけなさい、小春ちゃん」 「わかりました」 春日は目の前で手を組み、叫んだ 「「「慈愛」快癒の仮面」!」 彼女の周りが光り、不…

5 危険信号

放課後、帰ろうと荷物をまとめる遠賀川の元へ、水城と功刀宮がやってきた 「……何だ」 「部活、まだ決まってないんだろ?勧誘に来た」 「うちの演劇部、人数が少なくって……」 「興味ない」 ふいとそっぽを向いて帰ろうとする遠賀川に、水城は食い下がる 「そ…

4 保健室

どこに行ってもやまない「不協和音」 遠賀川は頭がくらくらしてきていた 無音の場所を。せめて静かに音が流れる場所を そうして彼は気が付いた 「……保健室」 彼は息を呑むと、そのドアを少しだけあけた そこには保険医と生徒が一人 音は殆ど聞こえず、二人の…

3 転校生

担任の教師に連れられ教室に入った遠賀川は、指定された窓側の席に座った ざわざわと教室がざわめくが、遠賀川は聞かぬふりをしている 休み時間になり、真っ先に遠賀川の席に近づく者が居た 自己紹介もそっけなく、人気がでないことが確定してしまった遠賀川…