シャクナゲ武器パロ「日出国忌子」
世界はまだ平和になっていない。 忌み子への差別はこれからゆっくり撤廃しなければならないのだ。焦ってはいけない。自分たちの心には確固たる自信がある。 「忌み子だって、人間だ」 「浩太さん、洗濯物干しておきました」華村が顔を出すと、浩太は笑顔で彼…
「……」「……」 五月が恐る恐る目を開けると、自分の襟首をつかんだまま殴ってこない浩太がまだそこにいるのを見た。最後の砦として仕込んでいた罠にもかからず確実にとどめを刺せたであろうはずなのに、この男は寸でのところで自分への攻撃をやめたのである。…
鍔競り合い。怪物の牙と、人間の凶器。 数を絞ってきたとはいえ、先方の数の多さも予想していなかった。「進めないっすよ、こんなのぉ!」「いたるところに何かを仕掛けているということか。でも、無暗に武器庫も展開できないな」「元を叩くしかないかもしれ…
朝ぼやけ、濃い霧の中を歩く一行。これだけでもとても幻想的だな、と華村は思う。「西の果てには、何かあるんすか?」「かつて「白虎」の神が住まったとされる神殿があるんだ。最後に見た時はもう瓦礫の山だったけどな」「そうなんすか。立派だったんすよね…
「皆、準備はできた?」浩太は皆に声をかける。返事が飛び交う中、華村はじっと手を見ていた。「この街を抜けてまっすぐ歩けば西の果てだ。何が待っているかわからねぇ。万全の準備を心掛けろ」「待機組は万一の時を考えておいてくれ。まとめるのは任せるよ…
『さて』 さて。……扨。話を変えるときの接頭語。だが、彼の話に頭はない。 『時は満ちた。役者はそろった』 『まもなく登場人物は西の果てにたどり着く』 『僕は彼らを出迎えるための準備をしよう』 『世界を絶望に堕とす、「四凶獣」としての準備を』 ぐち…
ゆっくりと、東雲はコンピュータに近づく。全員が固唾を呑んで見守る中、東雲はそのパネルにそっと手を触れた。「初めまして、だね。僕は東雲光里。君、すごくいい声をしているね」 その手、否、体そのものが大きく動くことはなく、操作をしている様子もない…
「「サイボーグ……?」」「そ。ぱっと見分からないけど、この男の人……、東雲さんって言ったっけ、彼の体内に機械が存在する。正確には、ここに、ね」乙哉は頭をこつこつと叩いて示す。一度気絶し戦闘不能になった侵入者二人を、乙哉は捕らえたり追い出すよう…
最適解ではあったはずだ。これでもだいぶ扱いには慣れてきた。それでも重いものを振り回すのは体まで持っていかれるのでつらいところがある。 その体を持っていかれながら斎藤の放ったメイスがリアを直撃する。だが。「……無傷、ですって?」肘を曲げて防御態…
「なんですか、突然」「メインコンピュータの電源は」「予備電源が入ってるから大丈夫……だけど」乙哉は振り返る。「異常がないはずのシステムが一気に中断したね」「緊急事態ということですか」「あんまり考えたくないけど」 「ああ、こんなところにいたんだ…
さかのぼること数時間前。ちょうどカワウチと華村が松浦と対峙していた辺りの時間のことだ。 システム管理をしていた斎藤と立花の交代の時間。二人は巨大コンピュータの前で談笑していた。「しかしながら、興味深いコンピュータです。この時代にここまでテク…
「つまるところ、僕らは「正義の味方」に襲われて、石川は「元狂信者」に襲われたと」浩太はテーブルにカップを置く。「面倒なことになってきたな」「ああ、カオスカオス。まさか西の果てを目指していたのは俺たちだけじゃないとは」 華村は入り口近くで部屋…
「んっ……」視界に光が差し込み、ぼやけていた意識がはっきりしていく。紫音は重い体を支え、起こそうとする。そこに添えられる誰かの手。「大丈夫、紫音ちゃん?」「甲賀、さん?」 紫音は思い返す。確か、憎き白虎の申し子を倒そうとして、衝撃に襲われて気…
同時に飛び出した石川と紫音が空で対峙する。互いに蹴りあった足が弾かれ回転がかかり飛ばされる中、先に空中で態勢を整えた石川が拳銃を紫音に向ける。しかし、彼女の背後が光ったのが見え、頭を伏せて地面に落ちる。頭上を光の矢が通り過ぎた。「光の具現…
「ったく、無茶しおるわ」巌流島はつぶやいて膝をつく。「素質」により過度に集中力を高める巌流島のルーティーンは瞬間的な爆発力はあるが、前後で動けない時間ができる。本人に力はあろうと戦闘に向かない「素質」であることには間違ってないので普通は隊…
落石、瓦礫、人間の悲鳴。その群れをかき分け白虎組が走る。先導がいないメンバーは住民の救助に徹している中、石川と巌流島が指揮を執って武闘派の隊士たちが黒い怪物に立ち向かっているのだ。「巌流島、西のほうを頼む! 俺は北の怪物の追撃を止めてくる!…
目の前に縛られた男三人。華村は困惑している。生かすのは分かる。というか、殺しては後味も倫理観も悪い。だが、捕まえて何をするというのだ。同じく困惑しているカワウチと共に、目の前の田辺と浩太を見守る。「これで全部か。もっと人数がいるかと思った…
敵の姿と武器を見ても浩太は一切動じなかった。呼吸は深く、華村も目を見張る。「助かったよ、華村君。いち早く異常を伝えるよう彼女に指示したのは君だろう?」「僕はただ「報告に行け」と言っただけなんですけどね」「意地悪なやつだ」にっと浩太の口角が…
「大丈夫か、カワウチ」目の前に立つ田辺の背を見ながらカワウチは返す。「怪我はないっす! でも、何でここが分かったんすか」「その話は後だ。構えろ!」 地鳴り、次いで振動。田辺と梅沢が互いの拳を受け止めぶつかり合ったのだ。「へぇ、僕のパワーに拮…
「そこ、どけっす!」身の丈のハンマーを振り回すも、男二人は簡単にかわしていく。いや、使い慣れているとはいえ重量のある武器を背の低いカワウチが振り回すのには無理があった。「こんのぉ!」「よっと」振り下ろしたハンマーを体格の大きな男、梅沢充が…
放たれるナイフをはじいて華村はふっと息を吐く。距離を詰め鎖をふるうも先方も的確に分銅をはじく。松浦と名乗ったこの男、自分と同等以上の実力があると見た。こちらには自分とカワウチ。戦略を練るのであればここは二人で押したほうが確実に勝てるのは分…
「しかし、何であたしと華村さんなんっしょ」森の道を歩きながらカワウチは言う。今、この道を歩くのは華村とカワウチだけである「カワウチちゃんはなんとなくわかる気がするけど、僕もとなるとなぁ」「逆っすよ。華村さんは素行もいいし信頼が厚いけど、あ…
翌朝、華村達一行は予定通り村を出た。巌流島と甲賀の様子を見たが、彼らはなにも引きずっていなさそうだったので安堵した。「少し遠くなるけど、この先にある港町に向かうよ」浩太の声に頷きながら、一行は歩を進める。港町までは日が沈む前に到着した。 「…
息をひそめる。足音を殺す。この先に、我等の村を荒らした忌み子がいる。あの時はまんまと逃がしてしまったが、今度こそ討ち取ってやらねばならぬ。 素人の考えたハンドサイン。明かりも消えて、声も聞こえない。やるなら今だ。唾をのみ、障子を開けた。しか…
全員が寝静まった静かな村の一角、宿屋の縁側に巌流島と甲賀は座っていた。月は薄い雲が包み込みわずかにかすんで見える。「巌流島さん、甲賀さん」「……華村くんか」少し困ったように笑う華村は、「隣、いいですか」と二人の横に座る。「こんな時間に起きる…
歩き続けて十日と数日。疲労感はないものの、人目につかない道を選んでいるがゆえに見えるのは山と森ばかり。そろそろこの緑も見飽きてきたなと華村はぼんやりと思う。「この先を抜けた村に宿をとっておいたから、今日はそこで休むことにしようか」浩太が声…
ついに動き出したね。 見たことある顔が何人かいるけど、想定内。青龍の申し子が置いて行かれるとは思わなかったけど、順当な考えではあるか。 安心しなよ、朱雀の申し子。僕はひとつもうそをついていない。あえて伏せた情報はあるけどね。 西の果てに向かう…
「討伐隊、全員揃ったぜ」石川が声を上げる。浩太と乙哉は互いに言葉を交わしていた。「行ってくるよ、乙哉」「気を付けてね、兄貴。こっちのことは任せて」「伊藤兄、そろそろいいか」「うん、今行く」 「華村さん」「カワウチちゃん。君も討伐隊に?」「田…
「浩太さん!」ばたばたと扉を開けて駆け寄る華村。浩太は医務室のベッドに腰かけてこちらを向いて微笑んだ。「よかった、無事みたいですね」「君なら来てくれると思ったよ。ありがとう、華村くん。幸いにも、この医務室は結界が張ってあるんだ。何かにかか…
「そうか、わしらも選抜された、と」存外低い声で返されたので、石川は僅かに驚きながら彼を見る。「まぁ、とりあえず座れ」と促し、畳の部屋に巌流島と甲賀と石川の三人。 「……石川殿、ひとつだけ願望を言ってもえいか」「構わねぇぜ。聞くだけ聞いてやる」…