バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

セカヒト番外 ヘテロ編

ありがとうを言うために

「んー! おわったぁ!」 背伸びをしながら真苅が応接間へと入ってくる 仕事の整理をしていたメンバーが手を休め、真苅を見た 「お疲れ、真苅。どうだったよ」 「ただのシステムエラーやったわ。大したことなくてよかった」 「そういえば、鬼才さんは?」 真…

幸せになりたい

一行は困惑していた 身体にまとわりついている霧は恐らく彼の毒だ 近づこうにも近づけない 「……あっ」 鬼才が此方に気がついた そのまま踵を返して逃げそうになる 「鬼才!」 梨沢が叫んだ。鬼才の足が止まる 「何があったんだ。説明してくれ」 あくまで冷静…

変わり果てた姿

「いいえ、私のところには来てないわ」 ロイヤルのその言葉に下を向くヘテロ一行 「仕方ない。地道に探すしかなさそうだ」 柿本の声に、ロイヤルが反応した 「だったら、私も行きます。鬼才さんに何かあったら、助けてあげないと」 「でも、もう夜やしチーム…

まさかの行方不明

「えっ、そっちにもきとらんの?」 真苅は驚いたような声で言う 鬼才の自警団の元を訪れたヘテロ一行は一度下上の客払いで帰されそうになったが、加原と藤塚が事務所内に入れてもらえた 「鬼才さんが変だなんて、そんなそぶりなかったですよね、リーダー」 …

不穏な空気

「……あれ? 鬼才さん、残しちゃうの?」 一足先に席を立った鬼才に、栗原が声をかける 「貴方が晩御飯を残すとは、珍しいですね」 「食欲がわかなかったんだ。ごめんね、せっかく作ってくれたのに」 鬼才はそういうと部屋を後にした 部屋に残されたメンバー…

真苅苺の優雅な一日(その3)

「あっちゃー、こりゃ派手にやられたねぇ」 自警団と共に現場に向かった真苅と柿本は赤く光るブラウザを展開するスーパーコンピュータを前にしていた 真苅は顔を隠し、いつもの方言を抑えている 「自警団さん、なんとかなりませんか……!」 施設の長が藤塚の…

真苅苺の優雅な一日(その2)

「よっ、桃子」 「桃子ちゃーん! 元気しとったー?」 「佑樹、真苅さん!」 三人は再会を喜びあう 自警団に入っている加原だが、水島の死を切っ掛けに副業としてアイドルをはじめた 自警団にひっかけた、「ポリス系アイドル」である 本人は遣り甲斐を感じて…

真苅苺の優雅な一日(その1)

少しはやめに起きるのが真苅の日課である 異端とはいえ彼女の素質はどこにでもいる女の子 美容に気を付ける故に夜更かしはしない リビング兼応接間に降りると、彼女より早起きな梅ヶ枝が朝食の支度をしていた 「おはようございます、真苅様」 「おはよう、梅…

ルナお姉ちゃんと林檎

「あの人は、ルナお姉ちゃん」 林檎が帰ってきてから梨沢は一緒にいた女性について尋ねた。ついてきてしまっていたことはバレたが、林檎は嫌な顔ひとつしなかった 「迷子になった時、助けてくれた。最初は、人形さんかなって思ったけど、そんなことなかった…

林檎のお散歩

「いってきます」 普段は留守番係として事務所に引きこもっている林檎が、ここ最近一人で外出をすることが多くなった 精神的に発達途中である林檎を一人で外に出すのはもってのほかなのだが、今のところ問題は起こしてないのでヘテロは交代で遠くで見守るよ…

とある研究所にて

「大黒屋ー。差し入れ持ってきたぞー」 都市から少し離れた場所に、その研究所はある 慣れた手つきでインターホンを押し、梨沢は画面を見上げていた やがて宙に浮かぶその画面によく見知った顔が映る 『梨沢か。珍しい客もいたもんだ』 「鬼才さんから預かっ…

【エピソード・桃子】新たなる決意

「水島杏子はルイウ討伐の最中に霧型ルイウに体を乗っ取られ、二週間以上経過していた。いずれにしろ本人は死んでいた。梨沢の判断は正しかったんだよ」 梨沢の体調判断も兼ねて異探偵の事務所に来た大黒屋はそう返した ここは梨沢の自室。梨沢は大技の開放…

【エピソード・桃子】非情な別れ

ガツン 梅ヶ枝の突きがルイウにヒットし、ルイウがわずかに飛ばされる そこにすかさず梨沢が間を詰め、盾全体で押し飛ばした 「警戒はしていたが、さほど強くはなさそうだな」 「わかりません。仮にもレベル【6】です、何か隠し持ってるかもしれません」 「…

【エピソード・桃子】事件の犯人

『見つけたで、水島杏子の借りていた倉庫!』 真苅からの連絡を受けて梨沢達はそちらに向かっていた 「何があったのです、梨沢様」 「林檎に言われて気が付いた。水島杏子の無事が確認されていないのであれば、最悪の状況も考えなければならない」 「マイン…

【エピソード・桃子】迎えのメール

日はとっぷりと暮れ、異探偵の拠点には一同が揃っていた 加原は既に柿本が送り、彼女の拠点に戻っている 「管理人と話はできたが、立ち合いによる鍵の開錠は明日になるんだと」 「せやったらうちも立ちあおうか?明日は久しぶりに時間があいてんねん」 「機…

【エピソード・桃子】拠点

加原、柿本、梅ヶ枝、そして出先に用事があった梨沢は、共に水島杏子の拠点へと向かっていた 「あそこに見える建物。あそこの上の階を杏子ちゃんは拠点にしてたの」 加原の指が指す先には、背の低い建物が市街地に紛れて建っていた 「杏子ちゃんは地下アイド…

【エピソード・桃子】整理の時間

「半月前、地方密着型のアイドルグループが姿を消した」 栗原がデバイスを見ながら言う 「犯人は特定されておらず、ルイウの可能性も否定できない」 「で、以降この二週間で次々と未成年の女の子が失踪を続けてるわけだ」 梨沢の言葉に栗原と鬼才が頷いた 「…

【エピソード・桃子】ドタバタ騒ぎと一息ついて

「だーかーらー、私のことは放っておいてってば!」 「放っておけるかよ! 友達がへこんでたら助けてやりたくなるじゃねぇか!」 柿本は加原を引きずるように前へ進む やがて見えてきたのは、古めかしい建物 「古っ! あんた、こんなところに拠点おいてるの…

【エピソード・桃子】少し古い付き合い

「あれ、桃子じゃね?」 あてもなくふらふらと街を歩いていた柿本は、河川敷に見たことのある後姿を見た 彼女、加原桃子は無理矢理に顔をぬぐってこちらを向く 「……祐樹」 「どうした、目が赤いぞ」 「なんでもないもん」 「なんでもないことないだろ? 泣い…

【エピソード・桃子】標的はかわいこちゃん?

「近隣の地方アイドルが失踪を続けている、だ?」 ソファに座っていた梨沢がだらけるように反り返りながら訊いた トラブルを引っ張り込んでくる柿本がおらず、林檎が小型ルイウと遊んでるのを見計らって、栗原が切り出した 「そうなんだよ。というか、最近こ…

【エピソード・桃子】プロローグ

あ? 話がしたい? そりゃかまわねぇが、お前、俺のつまらない話を聞いても楽しくないだろ? ……やめろよ、そんな目でこっちを見るな しかたねぇなぁ ちょっと話してやるか これは、俺がチーム「ヘテロ」に所属して間もなくに起きた事件だ あり得ない デバイ…

僕と僕たち

「僕は、自分の意見を持つことを許されない」 栗原が思い切って打ち明けたのは、昼時のラーメン屋でのことである 栗原から呼び出しを食らった梨沢は、彼の買い物に付き合い、腹ごしらえの真っただ中であった 間抜けにも麺をすすりきる前に顔を上げた梨沢。栗…

ヒーローに成りたかった少年

「俺さ、ヒーローになりたかったんだ」 社員が出払って梨沢と柿本と林檎だけとなった事務所内 ジュースを飲みきって空のコップを振りながら柿本は言った 「昔っからずーっと憧れでさ。俺もあんな風にかっこよく人助けしたい。そう思ってた」 梨沢は静かに耳…

異端嫌いの嫌いな異端

あいつに近づくな そう言われて皆離れていった 私は、ただ一人の人間でありたかっただけなのに 「下上さん」 上司の鬼才にそう声をかけられた 逃げようとしたが、彼は腕を伸ばした 「少し休憩しないかい?」 「触らないで」 力任せに鬼才の腕をはらい、そこ…

「ジューゴ」の思惑

「ほな、行ってくるで」 必要最低限の荷物と(最低限というにはいささか多そうな)端末を抱え、真苅は言った その後ろを梨沢が付いてくる 「珍しいね、真苅が機械関係の仕事で外に出るなんて」 「まぁ、うちの異端はあくまで「マシン語を話す」ことやけど、…

下上蜜柑の憂鬱

「下上さん、コーヒー、ここに置いておくからね」 鬼才の手からコーヒーカップが置かれる 下上はそれをちらりと見たが、すぐに仕事に戻った 「……ねぇ、下上さん」 鬼才が声をかける 「君はどうしてそんなに異端が嫌いなんだい?」 下上はこちらを見た 「僕、…

動揺

「このセカイにいる人は、その殆どが前のセカイでの記憶を消去されている、という話を伺ったことがあります」 紅茶のカップを置きながら梅ヶ枝は言った 「故に、私も異探偵を結成する前のことを覚えておりません。我々は最初から異探偵でした。それ以上でも…

最初から

「なぁ、真苅」 資料の束を運びながら梨沢は言う 「なんや、梨沢」 「お前さ、異探偵やる前は何やってたんだ」 「うーん…。覚えとらんわ。このセカイに来たときからうちは異探偵やった気がする」 「なんだ、真苅もかよ…」 「なんだって何やねん、梨沢」 「栗…

とあるカフェにて

「んーっ!」 デスクに向かいっぱなしだった大黒屋は思い切り伸びをした デバイスに向かいっぱなしはさすがに体にもくる 『おーおー、疲れやすくなってるんじゃねぇの?』 頭の中で響くのは「闇華」の声 「うるせぇやい」と一喝する 丁度昼時だった。お昼ご…

異端嫌いの部下

「鬼才さーん」 雨の降るある日のこと 梨沢は傘を忘れた鬼才を迎えに来ていた 何度か顔を出したことはあるが、一人で自警団まで足を運ぶのは初めてである 鬼才は時間を少しだけおいて奥から出てきた 横に一人女性を従えている 「やぁ、梨沢君。わざわざあり…