バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

セカヒト0シリーズ

それまで

家に帰る アパートのワンルームには誰もいない 俺はスマホを立ち上げて少しいじり、ガムテープを取り出した 窓のサッシにはりつくテープを見ながら ああ、人生辞めるって結構簡単なんだなと思う あの研究は自分の命をかけた力作だった 宇宙のダークマターを…

望まれぬ成果

「研究をやめてくれないか」 一度、そんな話を持ち掛けられたことがある それがなぜなのか、俺には理解できなかった 人類のために成果を出すことは、寧ろいいことなのではないのか 「理由がはっきりしないのであれば、俺は研究をやめるつもりはありません」 …

梨沢の研究

「研究の方はどうじゃ」 藤塚先輩が声をかける 俺は振り返って笑顔で言った 「捗ってる」 「おまんはすぐ無理するきに、わしとしては心配ぜよ。そうまでして研究がたのしいんか?」 「一生の大半を研究に捧げていい位だ。物理学は楽しい。胸をはって言える」…

天才が故に

天才でいなければならなかった 全てにおいて天才でいなければならなかった 俺はただ、人より少し頭がよかっただけなのに 初めのうちは楽しかった 勉強すればするほど知らなかったことが分かるようになっていき、また知らないことが湧いてくる 特に物理学や化…

新しい始まり

ふと、目が覚めた 倒れこんでいた床が僅かに温もりをもっている 頭が痛い。重い何かに潰される感覚である それをこらえて起き上がって辺りを見る。どうやら小さな白い部屋である 「やぁ、目覚めたかい」 不意にそんな声をかけられ、振り向いた つい先程知っ…

私の存在

激しくせき込むと喀血した 耳はもう聞こえない。視界も霞みだしていた 少しずつ訪れようとする「死」 恐怖はあったが、私は何故か安心していた 頭を押さえる柿本様 鬼才様にくってかかる真苅様 一人床に崩れ落ちて縮こまる栗原様 そして、ただ静かに微笑んで…

死んだ瞳

一時間後、約束の時間となり、続々と彼らはやってきた 皆、人と違うところを責められ、とうに笑顔を失くした者ばかりだ 女であることに疲れた少女、柿本祐樹様 機械にすべてを傾けた故に人を失った少女、真苅苺様 記憶を時折失い、多重人格に陥った少年、栗…

今から私は

底冷え、とはこのことを言うのだろうか 冬の本格的な寒さに耐えて2か月と数日。私は目的をもって歩いていた 私は接客業や給仕に仕えて数年の、今は何もない男だ 懇切丁寧さだけは取り柄であったが、それ故に硬すぎると距離を置かれていた その性格と、完璧…