バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

凛とした殺人鬼3

エピローグ

一度宣告された「死」 それは、既に逝ってしまった魂を掴むための ある種の試練だったのかもしれない いずれにせよ 俺はその「死」を通して 「力」を手に入れた もう、守られてばかりはやめるんだ 俺も、奴らに戦うために、立ち上がる 凛とした殺人鬼3 ~「…

23 『預言者』との再会

数日後 法律相談所を出たハシモトは人ごみを歩いていた 久しぶりに買い物をせずに直帰である ハシモトは気分も相まって足が軽かった そこに 「あっ」 そんな声が聞こえた気がして前を向く そこには、かつてハシモトが出会った男の姿があった 「……『預言者』…

22 追われる彼の本気

すっかり日が暮れ、眼前を闇が覆う この時期になると風も冷たく、それでもスーツひとつでハシモトは歩く ガサリ。何かの音がした ハシモトは振り返る。そこにはなにもいない 「……いるんだろ。出て来いよ」 ハシモトは胸の内ポケットに手を持って行きながら言…

21 一人の遠出

「おい、本当にいいのか」 ライターと名瀬田は裏事務所の出入り口にいた ハシモトはひらひらと手を振る 「ああ。お前たちに手を煩わせるつもりはない」 「そんなこと言ったって、君は戦闘力は皆無なんじゃなかったのかい」 名瀬田が挑発的に言うが、ハシモト…

20 変わるということ

「あっ」 少年の声が飛ぶ 道端に林檎が一つ転がる それが足にぶつかる前に彼はそれを拾い上げ、目の前に差し出そうとして気が付いた 「『ネズミ』さん」 「『弁護士』さん……?」 『ネズミ』は買い出しに出ていた 『イブ』が一人だが、彼女は彼女なりに防衛術…

19 初心者殺人鬼の危険な誘い

「それにしてもびっくりしたわ。貴方がそこまで追い詰められてるなんて」 食器を重ねて流しに運びながらフブキは言った 無論、ハシモトのことである 「俺だって、この時期になってそんな問題に直面するなんて思わなかったっていうか」 「『イブ』には『ネズ…

18 彼の過去

エミ・フルイセは少し裕福な家庭に生まれた 優しい母と厳格な父のもとで幸せに育ったと、彼自身そう思っている しかし、高校時代に両親を共に亡くしている 強盗に襲われて死んだと聞いている その日は雨が降っていた 規制ロープの向こう側で、傘もささずに彼…

17 問題提起

裏事務所に転がり込むと、丁度先に来ていたルソーと鉢合わせた この寒い時期に汗だくになっているハシモトを見、ルソーは眉間にしわを寄せた 「どうしたのですか、貴方らしくもない」 ルソーはハシモトを部屋の奥まで引っ張り込んだ 「人が撃てない?」 よう…

16 人を撃てない男

放たれた試験管をよけるのにハシモトは集中していた 右手に拳銃は握っているが、一向にそれをかまえようとしない 撃つことがあっても、足元に数発だ 『薬師』は笑いながらハシモトを挑発する 「どうしたんだい? 裏世界にいながら護身の術も知らないのか?」…

15 白衣の人物

「えーっと、確かコーヒー切らしてたな」 ハシモトはぶつぶつと呟きながら買い物かごをひっさげる 常に高みの見物であるハシモトだが、買い物だけは自ら行うようにしている 言わずもがな、「金」と「安心」のためである 「うし、こんなもんか」 買い物かごを…

14 武器屋にて

「で、襲われるのが不安で俺を連れてきたってか」 フードを深く被ったライターは、ハシモトにひきつられながら路地を歩いていた 「お前らしくもねぇ。たかが買い物ごときでこんなこと……」 「いいから黙ってついてこいっての。お前のナイフも新調してやるから…

13 震え

「『水仙』にお会いしたんですか?」 ルソーはコーヒーを口に含んでから言った 手元にはいつもの資料。ハシモトはそれをばさりとルソーの前に置いてから返した 「よく殺されずに済みましたね」 「敵意はなかったみたいだしな」 「ハシモト、それで、『水仙』…

12 カルミアの目論見

「それじゃ、お疲れさん」 「ハシモトさん、今日は早いですね」 「今日は仕事が早くあがったんでね」 一通り会話を交わしてハシモトは法律相談所から出てきた 『匠』の一件から、ハシモトは用心深く周囲を見渡すようになった 手遅れであったとしても、事前の…

11 理解と許容

『『匠』に襲われた?』 電話口でルソーが言う ハシモトは「そうなんだよ」と言って続ける 「いよいよ俺にもツケがまわってきたのかねェ」 『今更な気もしますけどね』 「それでさ、気が動転しちまったみたいでさ。俺、久しぶりに見ちまった」 『何をです』 …

10 逃げ延びた先で

ぜぇぜぇと息を吐きながらハシモトは裏事務所の近くまで逃げ延びた 頬にかかる汗をぬぐう。外はまだ寒いというのに 「あんののこぎり野郎、覚えてろよ……」 小さく呟き、ハシモトはよろよろと歩を進めだした 「貴方は死んでしまいます」 そう言った『預言者』…

9 追いかけっこ

大きな音を立ててゴミ箱が転がった ハシモトは大通りを目指して歩を進めているつもりだが、たどり着く前に『匠』に追い返されてしまう この時ばかりは自分の体力のなさを呪うほど疲弊しだしていた 「おい」 後ろから『匠』がとびかかってきた ハシモトは寸で…

8 500年前

「はい、確かに私のかつての仲間は、超自然的な能力を有していました」 平然とした顔で答える草香に、ハシモトはかたまった 「そんなことを言ってしまえば、「心器」だってその最たるものだと思うのですが」 「いや、それはそうなんだけど、そうなんだけどよ…

7 超自然的能力

裏事務所に戻ったハシモトは早速調べものにとりかかった どんな事柄もハシモトは裏の裏まで調べつくさないと気が済まない質なのである 細い指先がキーを叩くたび、ひとつ、またひとつと情報が浮かび上がっていく 『預言者』はそれこそ噂になっている程度の情…

6 死の『預言者』

昼間の仕事を終え、ハシモトは帰路についていた 骨と皮しかない不健康な身体も、スーツで包んでしまえば誰とも変わらないものである ハシモトは早く裏事務所に戻ることを考えていた そこに 「あっ」 そう声がしたかと思うと、ハシモトは誰かにぶつかった ハ…

5 カルミア騒動

ハシモトは常に情報収集する それは、パソコンによるハッキング作業から日常の仕事にまで及ぶ ハシモト以外から裏の仕事を受け付けないルソーがこの業界を生き抜いているのは、ある意味でハシモトの情報力のなせる業であった そんなルソーもたまに情報を提供…

4 「古伊勢博士」

「やぁ、帰って来たんだね」 裏事務所に戻り、上着を脱ぐハシモトに声がかかる 振り向くと、白いスーツの男がそこに立っていた いや、厳密には「男の姿をしたアンドロイド」なのであるが 明るい青の目が、彼をアンドロイドたらしめる証明のようである 「そん…

3 幼馴染

ハシモトは一件の家を訪れていた 彼のもとで仕事を斡旋してもらっている『赤髪の殺人鬼』、もといルソーの家である ハシモトとルソー、そしてルソーの姉であるフブキは歳の離れた幼馴染で、何気なく集まってしまうのである 「また来てんのかよ、この骨は」 …

2 『ハシモト』という男

法律相談所に務めるハシモトの住みかと言えば「裏事務所」のことである 必要なものと、少し高級な小道具と、カーペット。買いそろえたものと言えばこの程度である 熱いコーヒーをデスクの上に置き、ハシモトは煙草に火をつけた コーヒーと煙草のにおいが上空…

1 いつもの夜

「何故あなたが襲われているかなんて、実際どうでもいいことなんです」 いつもの口上が月夜に消える 今、彼の目の前にいる男は、『赤髪の殺人鬼』と称された男 帽子からはみ出る赤い髪を見ながら、彼はぼんやりとカメラをいじっていた 「ただ、貴方には、運…

プロローグ

ぎしり 歯ぎしりの音が頭に響く まただ またあの「亡霊」が 俺は 俺自身は 家族を守ることが できなかった 凛とした殺人鬼3 ~「亡霊」に弾丸を~