バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

凛とした殺人鬼4

エピローグ

ねぇ、知ってる? 『赤髪の殺人鬼』 最近あまり見かけなくなったよね でもね、 ずっとどこかで、私たちを見ている気がするんだ 君もそうはおもわない? 殺人鬼に殺されるほど そんな価値があればいいって 私は思うんだ そんな価値がないから 今を生きている…

42 変わらない日常

大きな敵を打ち破ったからと言って、安息が訪れるわけではない それはルソー自身も知っていたことだし、ハシモトにも忠告された 彼はもう一生泥沼の底から這い上がることはできないだろう それでもよかった。姉が、「仲間」がいる限り 「ねぇ、知ってる? 『…

41 幸せの話

「ミツミさん、ルソーは……?」 不安そうなフブキの声に、ミツミは首を振った 「一命はとりとめた。けど、いつ目覚めるか分からない」 「そう、ですか……」 無理もなかった 背中に大きな傷を負い、失血で意識が朦朧となろうとも、最後には「加速」し、カルミア…

40 絶対、絶体、絶対

「『弁護士』ィ!!」 吠える声が聞こえる それに気が付き、わずかに目を開くルソー そこには、いつもの仲間がいた わっと集まる殺人鬼と犬の群れ それぞれが機械のアームに掴みかかり、一つ一つ壊していく 『匠』が邪魔しようとするが、それを阻む人影 「姉…

39 選択肢

「……っ、ちぃ」 ドスンと音を立てて鋸を地に置いたのは『匠』だった かれの目の前でルソーは背中を斬りつけられて倒れていた 「残念だったな、『赤髪の殺人鬼』。ここは俺たちの拠点。いくらでも展開をひっくり返せるんだよ」 ぴくり ルソーの指が僅かに動く…

38 真剣勝負と裏技

ドスン 『ボス』の取り出した心器は身の丈ほどの大きな両刃剣 「命知らずがまたきやがったな」 「貴様とは二度目の相対か。本当に、お前は退屈させてくれない」 鼻で笑うように『ボス』は言う ルソーはその言葉を聞きながら彼の動きを見ていた 「今回もさぞ…

37 処刑台へ

「緊急事態、緊急事態!」 「複数の侵入者を確認!」 「全員配置につけ!」 ギャーギャーと騒がしいカルミア本部 『ボス』はそれを高みの見物としているだけである しかし今回は様子が違った 声の消え行くタイミングが早い おかしい。こんなこといままでなか…

36 ゴーサイン

「それでは、今日は遅くなりますので」 ルソーはいつものように口上を述べて立ち上がった 「アイラさん、準備はできてますか」 「今更だな。お前のためのお膳立てってやつだ」 「語彙力、ついたんじゃないですか?」 「うるせぇやい」 「ルソー」 フブキと草…

35 ごめんね

「ルソー」 フブキがおにぎりを持って部屋に入る ルソーはベランダの塀に寄りかかり、間もなく満月になろうとしている月を眺めていた 「珍しいわね、貴方が夜更かしだなんて」 「……確かに、最近は忙しかったですから」 必要なことしか口にしないルソー 「………

34 残り二日

「いよいよ動き出すんだな」 アイラの言葉にルソーは強く頷いた フブキと草香が買い物に行っている間に、ヤヨイを呼んで三人で寄り合っていた 「悪いけど、私は動けそうにない」 ヤヨイは申し訳なさそうに言った 「誰が広めたか分からないけど、私が心器使い…

33 残り三日

月齢はまわり、何度目かの満月が顔を出そうとしていた 大量の死体を横目に見ながら、ルソーは夜空を見上げる 立て続けに起こる身内の事件。『薬師』『匠』、『猿回し』にいたっては姉がかかわった 「もう、立ち返ることはできないのですね」 ルソーはひとり…

32 過保護

「姉さん!」 バタバタと音をたててルソーが家に帰って来た そしてフブキの姿を見つけると、駆け寄って抱き締めた 「よかった、生きてて……」 「なぁに、ルソー?私が簡単に死ぬわけないでしょ?」 フブキは優しく言う 目の前で両親を殺された彼女は、自分を…

31 『弁護士』の姉(『猿回し』下)

『猿回し』の心器には秘密があった 「戒律」を示す彼の時計は、なんと彼以外の時間を止めることができるのである いくら抵抗しようと止まった時の中では無意味 『猿回し』はそれを誇りに思っていた 故に挑んでしまったのだ それを破る術を持つ者に 「俺に勝…

30 瞬間移動の謎(『猿回し』上)

先に蹴りだしたのはアイラの方だった 迷うことなく『猿回し』に、左腕を伸ばして襲い掛かる が、その首を捕らえようとした瞬間 「!?」 『猿回し』の姿が「消えた」 「どこ狙ってるんだ、『折り鶴』」 そんな声が聞こえ、振り向くと、『猿回し』が海中時計…

29 突然の展開

ヤヨイに誘われフブキはアイラと共に買い出しに出ていた 「俺、こういうの苦手なんだよなぁ。細かすぎる作業というか」 「裁縫はどうしても細かくなるわよね。でも、慣れてしまえば楽しいものよ」 「というか、針が細すぎて折れちまうんだよ」 「それはそれ…

28 姉の憂鬱

ベランダに洗濯物を干しながら、フブキは物思いに耽っていた ルソーの今までについて考えてたのだ 両親が死んだあの日から、彼はかわった 「大丈夫」だと言いながら、外との交わりを絶ち、挙げ句転居して閉じ込めた弟 仕方のないことだと言いながら、自分に…

27 動き出す時

「……ちっ」 『猿回し』は頭を抱えていた 『薬師』が死に、『匠』は重症。それだけで頭が痛くなる案件だった 「さ、『猿回し』様、これからどうするおつもりで」 二つ名を持つ殺人鬼は、これで殆どいなくなった 名前のない兵士を仕向けたとしても、一度たかだ…

26 恩人

私は最初から、人に恵まれていた 目覚めた時には博士がいて、博士が私を外に連れ出してくれた 友達もできた。いや、友達というより、仲間というのが相応しいかもしれない 500年経った今。私はまた、仲間に囲まれている 幸せだ こんな幸せを、私が噛み締めて…

25 『匠』

「おっと!」 弾丸をかわしてバランスを崩す『匠』 草香は追撃を試みるが、のこぎりをついて『匠』は体勢を立て直して弾丸をはじいた 「貴方、何のためにカルミアの肩をもつのです」 「それが刺激的なんだよ」 「刺激的……?」 怪訝そうな顔で草香は言う。あ…

24 いかせない

「よう、機械女」 そんな声をかけられ、草香は振り向いた 誰もいない路地にいたのは、以前家に踏み込んできた殺人鬼 「何ですか、貴方」 「『匠』と呼べ」 『匠』は悠然と草香に近づく 「うちの会社と部下が、お前の仲間に世話になってるらしいじゃねぇか」 …

23 機械とは

「私は、機械なのに、心を持ってしまいました」 昼下がりの公園。フブキとルソーにはさまれる形で座っていた草香はぽつりと呟いた 「殺人鬼になった今もそれは変わらなくて、人を殺すことに抵抗を覚えるのです」 「いいことじゃないの? そうやって機械的に…

22 闇夜の独白

「『薬師』が死んだらしいなぁ」 その言葉に『猿回し』は手を止める 「あいつが悪い。勝手な真似をしたのはあいつだ」 「ごもっとも。でも、優秀な殺人鬼がいなくなったのは事実だ」 『匠』は『猿回し』の背に立つ 片手で小型ののこぎりを弄び、口角は上がっ…

21 俺の存在

家に帰るなりフブキとあっさり出くわしてしまった フブキはいつもの笑顔で「おかえり」と言ったが、服の状態を見て眉間にシワを寄せた 「何かあったの、アイラさん」 「……いや、何でもない」 アイラはそのまま階段に向かって歩こうとしたが、ぴたりと止まっ…

20 『薬師』

「ちっくしょー……」 素早く間を置き、アイラは口元をぬぐう 接近戦一本に絞られるアイラは、遠距離から攻撃してくる『薬師』と相性がすこぶる悪かった 近づこうとすると持っている薬品を投げつけられ、近づくことができない 「どうした、『折り鶴』もそんな…

19 路地裏の出来事

アイラの姿はよく目立つ 2メートルはあろう身長、それに合う服がない故の黒いローブ、そして、水色の髪に赤い髪留め 故にアイラは昼間の外出を拒み、どうしてもの用がない限り夜にならなければ外に出なかった 夜になってもミカガミの街は騒がしい 中央都市…

18 家族

「アイラさん」 二階のベランダに座っていたアイラに、フブキが声をかけた 「ご飯、できたわよ。下に降りて」 「……ああ」 「元気ないわね。どうかした?」 フブキはあくまでも明るく接してくる。アイラはそこが彼女のいい所であり悪い所でもあると承知してい…

17 ただの面白がり

「『猿回し』さんよぉ」 『猿回し』の自室に入り、『薬師』は話しかけてきた 「そろそろゴーサイン出してくれよ。退屈で仕方ない」 「慌てるな。退屈なのは向こうも一緒さ」 「『薬師』、お前は何が望みだ」 『猿回し』の言葉に、『薬師』は黙って耳を傾ける…

16 変わらない街並み

「本当にごめん、ハシモト」 息を切らしながらヤヨイは扉を閉めた ハシモトは最初こそ驚いていたが、状況を察するとヤヨイを応接間まで連れて行った 「街の住民がお前を追いかけまわしている、ねェ」 「誰かが通報したんだと思う。でも、おかしいよ。私の心…

15 やりにくい逃走劇

体力に自信はなかったが、今はただ走るしかなかった 巻き込まれた『ネズミ』がこちらを向く 「『仕立て屋』さん、何かあったのですか!?」 「私が聞きたいよ!」 ヤヨイは考えていた 追いかけてくる相手が殺人鬼ならなんとかなったと思う。殺してしまえばい…

14 『ネズミ』と『仕立て屋』

「あっ」 そんな声を上げてヤヨイは立ち止まった 正面の信号、道を挟んで向かい側に知った顔があったからである 「『ネズミ』くんじゃない」 「『仕立て屋』さん」 「久しぶりだね。おつかいの途中?」 「そんなところです。うちのご主人は悪目立ちしてしま…