バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

夏の空と廃工場

後日談(大黒の場合)

明日、日本の元号が変わる 数日前からその話で持ち切りの仕事場で、俺は軍手を外してスポーツドリンクをのどに流し込んだ あれから連絡こそ取り合うものの、直接会ってはいない 話によれば、仲の良かった二人が籍を入れたらしい あいつらが、という意外性と…

20 終幕と約束

予め仕掛けておいた真宮のハッキングによりこの騒動が表沙汰になることはなかった 気を失った九十九はすぐに地下に連れ込まれ、全員の視線の中で目を覚ました 「異常気象が完全になくなったわけではないが、これで俺たちにできることはすべて成し遂げた」 赤…

19 一撃と結末

「AEDをあるだけ用意しろ!」 上空を覆う黒い影 未確認飛行物体の長がそこにいる 「大黒屋、お前、よくこんな工作思いついたな」 「廃工場だから機器はある程度残ってたしな。ぶっちゃけ動くかどうかは賭けだ」 「試してないのかよ!」 「当たり前だろ。こん…

18 破壊と観察

「……さぁて、来やがった」 上空を見て大黒は呟く 七人は廃工場の破れた天井越しに、未確認飛行物体の群れを見た 「!」 真宮がノートパソコンを操作する 「来たよ。エネミーからのコンタクトだ」 「スピーカーに切り替えてくれ」 赤城の指示に頷き、真宮はス…

17 水と音

「論、そっちの準備はできてるな!?」 『大丈夫』 『こちら真宮。順調にエネミーを誘導できているよ』 住宅地にいた黒い生物をかき集め、笛利は走っていた エネミー討伐作戦も終盤に差し掛かった頃 大黒の「自由工作」も終盤を迎えていた 同時にエネミーも…

16 鉄パイプと爆発

「こっちだ、化け物!」 赤城は黒い物体をおびき寄せるように走る ぬちゃぬちゃと粘着音を立てるそれは、それでも速いスピードで追ってくる やがて人影のないところまでおびき寄せた赤城は持っていた鉄パイプを回して黒い物体に向けた 「かかってこい。一匹…

15 月明りとエンブレム

夜も更けたが、蒸し暑い気温は変わらない 昼間より幾分ましになった程度か 赤城は誰もいない廃工場の上でぼんやりと空を眺めていた 「よっ、山さん」 九十九がそこに地下のドアを抜けてやってくる 「早く寝ようぜ。明日も猛暑だってよ」 「ああ、今行く」 赤…

14 折り返しと自由工作

茹るような異常な暑さも残り一か月ほどとなった 秘密基地には大黒を除く6人が地下で涼んでいる 「地下施設とはいえエアコンなかったら死んでたな」 九十九が言う。ちなみにここの電力は大黒が大手から引っ張り込んだ 「機械のオーバーヒートも怖いところだ…

13 実害と誘惑

「実害、だと?」 赤城の言葉に真宮が頷いた 「近隣に住む住人に被害が出始めた。警察の方で、被害届が相次いでいるらしい」 「できるだけ内密に進めたかったんだがな……」 「その点は大丈夫みたいだよ」 信楽が返す 「狙いはあくまでも私たち。だから、私た…

12 始動と気配

『走って、九十九。次の角を右に曲がってすぐにエネミーだ』 あれから赤城たちは黒い流体の生物を「エネミー」と呼ぶことで統一した そして、その生態系や彼らが持ち込んでくる機械を調べながら実態に迫ることにした 角の直前で体を横に滑らせ、九十九は雷を…

11 監視カメラと千里眼

「……ええ、そういうことだから、よろしく頼むわね」 大黒はそう言って通話を切った 「どこに電話してたんだ、大ちゃん?」 九十九が近づくと、大黒は胸を張って答えた 「警察に、な」 「警察?」 赤城が反応する 「ああ、大丈夫。異能力のことは向こうは知ら…

10 誘拐事件と医療事業

その日は豪雨だった むき出しの床に打ち付けられる雨の音は地下にいた七人の元へと届く パイプを流れる轟々といった音も聞こえる中、各々好きなことをして雨が止むのを待っていた 「なぁ、山さん」 九十九が赤城に近づく 「例の黒い物体、確かに見たけど、あ…

9 光とシャボン玉

笛利は廃工場でシャボン玉を吹いていた 暖められた空気によってシャボン玉は上へと昇っていく しかし、屋根を超えるあたりで割れてしまっていた 「んっ」 そんな声が聞こえ、笛利は入り口を見る 杖をついた高田がそこにいた 「シャボン玉……。流哉の?」 「………

8 超物体と探求心

「ほーう」 大黒が感嘆の声を漏らす 白手袋で掴んだそれは、先ほど九十九と信楽が拾ってきた小さな機械 「すごく興味をそそるな、こいつは」 「何かわかったか、大黒屋」 赤城の声に大黒は首を振った 「ぜーんぜん。だから面白いんだよ」 赤城は大黒が昔から…

7 闇討ちと機械

「……ガチでいやがった」 草むらに忍び込んだ九十九は外を見ながら言う そこには黒い流動体の生き物が一体 何故か地面を掘り起こしている 「スイちゃん、外さないでよ」 「任せろ」 九十九は信楽が見守る中、腰のポーチからダーツの矢を引き抜いた 照準を合わ…

6 流動体と目標

どっぷりと黒い液体のようなものが流れている それは時々塊を運び、気持ち悪さを更に加速させる 「うっへぇ、なんだよ、これ」 九十九が口を押えながら画面を見る 彼ら7人は、真宮が取り寄せた異常生物の動画を見ていた 「これが、どうもここ最近の異常気象…

5 守る理由とカレーライス

「……」 大黒は廃工場の鉄材の上に座って昇る月を眺めていた 廃工場に屋根はなく、むき出しの鉄骨の隙間から月は夜闇を照らす 「そこにいたんだ、大ちゃん」 地下への扉を開き、真宮が顔を出す 「皆、飯食うってよ」 「わかった、今降りる」 「……なぁ、真宮」…

4 反乱と結果

「にしてもあっちーな。早く基地に戻りてぇ」 暑さにうだる九十九を横目に信楽は重い荷物を持ち上げて歩いている 「だから私一人でよかったのに」 「一人だけに任せるってなんか嫌」 「懐かしいよね。この道も、さっきのスーパーも、あの廃工場も」 「そうか…

3 新生活といつも通り

「ふー、とりあえず基地内の電子機器整備完了っと」 壁と向かい合って作業していた大黒が汗をぬぐって立ち上がる 「そこの機械つけてくれれば冷房もパソコンも使い放題」 「ちなみにその機械、何?」 「発電機」 「発電機いるからいいじゃねぇか」 「おい誰…

2 異常気象と生命体

やろうと思えば10年放っていた室内も綺麗になるもので 7人はゴミ袋を端に寄せ、中央で円陣を組んでいた 「皆、よくきいてくれ」 集団のリーダー格である赤城が口を開いた 「最近、近隣で見たことのない生体反応があったとマキから聞かされた」 「本当なの…

1 廃工場と秘密基地

ピロピロ その日、彼女のメール機能が久しぶりに仕事をした ラインやSNSが流通しているこの時代に一体誰からだとスマホを開く そこには懐かしい名前が刻まれていた 「……」 彼女は電話に画面を切り替え、そのまま発信した 「……よう、久しぶり。おいちゃん…

プロローグ

「この星を狙う生命体ども」 「この星が欲しけりゃくれてやる」 「ただし一つ条件がある」 「この星に本来あってはならない」 「七つの生命体を」 「納得させろ」 「己が力をもって」 あの日、宣戦布告したあの日 日本は雨雲を斬り裂いて、雨の予報を打ち消…

登場人物(またの名を侵略から守る七人衆)

赤城(山さん) 愛称:山さん 能力:発火 武器:鉄パイプ 主人公メンバーのリーダー的存在で、今回のメンバー再集結を呼びかけた一人。 メンバーを信用しているがそれゆえか前に出すぎる癖がある。最初からとばして息切れするパターンが多い。 九十九 水(ス…

お題SS「夏の空と廃工場」

「いつ頃だったっけなぁ」 そう言いながらこの廃工場に足を運んだ男が言う 彼の後ろにも、数人の人物 「ここを秘密基地にしようって言ったのは」 「まさに「秘密基地にしてくれ」って言わんばかりに建ってるよな、ここ」 「懐かしいわね。夏休みになると、毎…