バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

死神代行業者

エピローグ

よォ、久しぶりだな。何か月ぶりだ? ま、座って茶でも飲んでいけ 依頼だろ。ちゃんと受けるって うん? 新サービスの話? ああ、あれね。用意はできてるぜ その名も「死神代行業者」 依頼した相手の首を狩ってくる新システム 仕事仲間から提案されてな。今…

17 その先にあるもの

「いってくるよ。留守番よろしく」 そう言ってイマイは出て行った 残された三人は事務所の掃除である 「今年も一年終わるね」 「あっという間だったな」 「……信行、貴方、今年はどうだった?」 家愛から話題を振られ、信行は考え、言った 「いい一年でしたよ…

16 死神、代行

幸せな生活が羨ましかった 学校に赴けば友達がいて遊んでくれて 家に帰れば暖かい家族が出迎えてくれる そんな当たり前が、彼にはなかった 扉にぴたりと耳を当てると、男女の笑い声 「兄弟はいないんだよな、信行」 「本当にいいの?」 秀忠と家愛が信行を見…

15 教えてあげる

夜遅く、塾から出てきた委員長は帰りの道を歩いていた この辺は薄暗く、点々とライトがついているだけである 故に警戒はしていたが、予想外の事態とはいつでも起こりうるのである 「ねぇ」 そんな声が聞こえて、彼女は振り返った スポットライトのように街灯…

14 それが噂になるまで

「ねぇ、昨日のニュース、見た?」 日直日誌を書く少女に、別の少女が話しかける 「『首狩り』、また出たってよ」 「知ってるわ。今この街に住み着いている死神でしょ」 日誌を書いていた少女は眼鏡を上げる 漆黒の髪を二つに結び、校則通りに制服を着こなす…

13 復讐の始まり

「信行」 イマイが端末を持って信行の部屋を訪れた 「どうしたんですか、イマイさん」 「そろそろ身の上話が訊きたいなと思って」 「秀忠さんと家愛さんは」 「秀忠は恋人とデート、家愛は僕の知り合いまでおつかいに行ってもらってるよ。今ここには僕たちし…

12 わかない実感

「うん。様子は聞いてたけど、僕がいれば君一人でも大丈夫そうだね」 イマイはキーを叩きながら言った 「その調子で頼むよ、信行」 「はい……」 「なによ、嬉しくなさそうね?」 明るく弾んだ声で家愛が言う その後ろから秀忠がため息を吐きながら言った 「ま…

11 メイス

ドッと大きな音を立ててメイスが壁にめり込む 信行はひらりと舞い上がるとメイスをかわして突撃する しかしそれを読まれてかわされ、次のメイスが飛んでくる それが数回続いていた 「ワンパターンだな。二つ名持ちのくせして弱い」 「人の事、言えないんじゃ…

10 一人の戦場

『聞こえるかい、信行』 イマイの声がイヤホン越しに聞こえてくる 確かに家愛と秀忠もついてきてはくれるが、自分がやらなければという重圧が襲い掛かる 「聞こえてます、『判決者』さん」 『メイス使いはこの先にいる。不意打ちを仕掛ける必要はない。確実…

9 イマイの力

「ふーん……」 イマイは片肘をついてマウスをいじる そこに横からコーヒーがすっと差し出される 「イマイさん、お疲れ様です」 「ん。ありがとう、信行」 「君には、僕の事どれだけ話したっけ」 「闇ブローカーで、心器を見抜く力があるとだけ……」 「ん、そう…

8 暗示と今

「こんな子に産んだ覚えはない!」 「お前、人を殺すんだろ?」 「近づくな。あいつはやばいやつだ!」 違うのに 僕はただ、皆と仲良くしたいだけなのに 親に優しくしてほしかっただけなのに 皆、僕の「暗示」で離れていった 傷つけた 「う、うう……」 僕はそ…

7 首を狩るということ

「逃げろォ! 殺人鬼だァ!!」 そこにいた人間は散り散りに逃げ出す 逃げ遅れた一人の首に鎖がかかった 「うぐっ!?」 そのままギリギリと締め上げられる 常人の力ではないそれに加え、後ろから背中を押され、彼は窒息した 「うーん、いまいち」 家愛は手…

6 殺しの覚悟

ドスン 地響きがする 秀忠が油断していたわけではないのだ。どころか手を抜く余裕など今にしてあるはずもなかった その秀忠の腹と胸に乗り、信行は彼の首筋に鎌を向けていた 「……ははっ、成長が早すぎるんじゃねぇの?」 秀忠の声は震えている 信行は秀忠か…

5 馬鹿と心器は使いよう

「「死神」の暗示を持つ鎌使い。お前はそれを知っていたはずだ」 秀忠はイマイに声をかける イマイはキーを打つ手を止めると、くるりとこちらを向いた 闇のように深い黒の瞳がこちらを向く 「僕を誰だと思ってるんだい。『預言者』の息子にして超自然現象の…

4 暗示

勢いあまって飛び出してきたはいいが、彼は迷子になっていた 複雑に入り組む暗い路地 彼はその場に座り込んでいた どん、と蹴り飛ばされるようにぶつかる 見上げると相手はいかにも怖い姿をしていた 「おい、なんだてめぇ」 信行は蒼い顔で走り出した 何度折…

3 明かしたくないもの

「うわっ!」 下がった勢いでしりもちをついてしまい、立ち上がろうとした瞬間、首元に刃が突き付けられた 「油断するな。これで俺に何度殺された?」 秀忠は血の色をした斧を信行の首元からはなして肩にかついだ 「ちょっと秀忠ー。ちょっとくらい手を抜き…

2 押し付けられた教育

「ただいま」 イマイに連れられ路地裏の建物の一室に通された彼。 そこには背の高い男と同じくらいの女がいた 「お帰り。イマイ、その子は誰?」 「拾った」 イマイはそのまま奥の台所に一度引っ込む 「おい、お前、何ていうんだ?」 背の高い男が声をかける…

1 『判決者』との出会い

「神様、僕はここまでのようです」 慣れた手つきで十字を切ると、すっと涙が頬を伝った。 廃屋街のビルの上 彼は今から死のうとしていた 人生に疲れた 簡単に言えばそういうことだ 何処にいても安らぎは訪れず、日に日に増えていく痣と傷跡 叫んでも誰にも助…

プロローグ

あいつが失踪した? 前触れはあったのか? いつも通りだったよね? 死んだとか言われてるらしいよ 冗談でしょ? 「滑稽だなぁ」 「僕を「ここ」まで堕としたのは」 「「お前ら」でしょ……?」 復讐の死神は 今日も彼の体を借りて 命を狩り取っていく 死神代行…