バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

短逝執行人 改

エピローグ

俺は自分の人生を苦に感じ、死んだはずだった でも、もう一度生かされる権利をもって生まれてしまった 人生は、つらい。それは間違いない けど、どうか、生きてほしい 俺たちはたまたま、もう一度生きてみてるけど 人生は一回しかないはずなのだから ……まぁ…

28 そして

「いやぁ、お手柄でしたね! 指名手配犯を捕まえてしまうなんてすごいですよ!」 白がニコニコと笑いながら話しかける 雷堂もそれににっこりと返した 「お褒めの言葉、恐縮だね。私たちは当たり前のことをしただけさ」 「ていうか、今日は似長は一緒じゃない…

27 「魂」

「あらあら、こんなところまで来てくれたのね、私のために」 女性はくつくつと笑う 似長は拳銃を取り出し、一歩前に出て構えた 「指名手配犯・赤坂和歌子! お前を、逮捕する!」 「……やってみれば?」 和歌子は素早く手を突き下ろして叫んだ 「『落ちろ』!…

26 赦し

それからの行動は早かった 雷堂と清光の指揮で朝希が今までかかわった『執行人』実験の被験者を洗い出し、優斗の目で照らし合わせたのだ 「移して与えた能力はしばらくすると消える。多分、最近になっても来ていた長期の被験者が犯行を起こしたかもしれない…

25 愛と皮肉

『執行人』の能力にはいくらか制約がある 一つ、他人にしか効かない 一つ、他人を殺すことはできない 一つ、一日に一度しか使えない 「死」を乗り越えて「生」への切符を握らされた彼らの制約 その血のように赤い髪は「愛を残して死んだ者」への戒めである …

24 真相

「出かけてきます」 そう言って清光は席から立ちあがった 「何だ、珍しいな、お前から外に出ようとするのは」 「久しぶりの外よね。気を付けてね」 道男と紫苑に軽く手を振り、清光は入り口の扉を開けた 道で朝希を連れた似長たちとすれ違ったが、特に彼は反…

23 張り合い

美紗をひるませすぐに脱出しようと拳銃を構える似長 しかし美紗はひらりと上空を跳び、唯一の通路を塞ぐように立った 「あの、また今度にできないかしら。今は仕事中で、このままだと貴方、訴えられるわよ?」 夢宙はあくまで平静を装い、朝希を促す。しかし…

22 発見

似長と夢宙は路地裏に身を潜めていた 最近このあたりを徘徊する犯罪者がいるとの通報を受けたのである 「本当にここに出るのかよ……」 「仕方ないでしょ。民衆を守るために警察が通報したんだから私たちも協力しないと」 「……なぁ、夢宙」 似長はわずかに視線…

21 存在確認

「あの、ちょっといいかな」 買い出しの帰り、似長と道男は男に声をかけられた サングラスをかけた背の高い男。顔立ちはかなりととのっている 「ちょっと、君に話が聞きたいんだ。近くのカフェまでいいかな」 呼び出された似長は首をかしげながら、道男と共…

20 執行人と「死」

「『執行人』の「制約」と「掟」、か」 昼間の公園のベンチに似長は座っていた 「考えてみれば、よくわかってないことも多いなぁ」 「お兄さん、こんなところで何してるのかなぁ?」 不意に女性の声が聞こえ、似長は顔をあげる そこには白が笑って立っていた…

19 一つ

「よう、清光。調子はどうだ」 夜食を持って似長が清光の部屋に入ると、清光はパソコンの画面を凝視していた 「おかげさまで、いくらか回復はしました。まだ完全ではありませんが」 「そうか。ほら、夜食」 「そこに置いておいてください」 「一体何を調べて…

18 勧誘

茄子池優斗、と、男は名乗った そして、『執行人』が反吐が出るほど嫌いだとも、微笑みながら言った 「さて、何から話してくれるんだい? 僕は、何も信じる気はないけどね」 どうやら茄子池の意志は固いようだった 「お前、どうして俺たちを狙ったんだ? 『…

17 噂と真

「ふむ、そうして突然彼に襲われたと」 雷堂は顎に手をあてて言う 似長の視線は、ソファの上に寝かされている男、もとい、先ほど襲ってきた男に注がれていた 「俺も突然のことで何が何だかわかんなかった。けど、盲目的で必死なのは伝わってきたんだ」 「………

16 弾数

裏路地を選んで逃げ続けるのも疲れてきていた それでも後ろの男は圧倒的なスピードで追ってくる 似長は足を止め、懐から拳銃を取り出して向けた だが、後ろの男はそれを認めると、突然高く飛び上がったのだ 縦横無尽に動き回る男に照準を合わせることができ…

15 制約

「ふむ、なかなか減らないねぇ、『執行人』の犯罪……」 タブレットをつつきながら雷堂が言う 似長はその姿をぼんやりと眺めていた 「一大事なんじゃねぇの、それ。すぐにでも『執行人』捜しに出なきゃならなそうだけど」 「それが、そうもいかないんだよ」 雷…

14 記憶との差異

「似長さん、清光君は大丈夫?」 紫苑が心配そうに問いかける 「いや、かなりまいってるみたいだ。今はかかわらないほうがいいだろう」 似長は視線を落として答えた 帰ってきてすぐに自室に籠った清光は、食事の時間になっても現れなかった 仕方なく彼の部屋…

13 面影

「つき合わせて申し訳ありません、似長さん」 「いいんだよ。どうせその怪我じゃ荷物も持てなかっただろ?」 買い出しからの帰り道、似長は大荷物を抱え、清光に付き添っていた ギプスを首から下げる清光の姿は痛々しかった 「雷堂さんと話したそうですね、…

12 偽物の存在

「ふーむ……」 似長と紫苑が事務所に帰ると、残りのメンバーが机とにらめっこをしていた 「ただいまー。何してんの?」 「あら、お帰り似長、紫苑」 「いやぁ、ちょっと不都合が起こっててな」 「不都合?」 「これを」 雷堂が示したタブレットを二人はのぞき…

11 攻撃

「気を付けろってったてなぁ」 空を仰ぎながら似長は道を歩く その横で紫苑がうーんと唸っていた 「私たちの存在って、基本的に秘匿にされてるんだよね? ただの通り魔に襲われたのかな」[ 「清光に限ってただの通り魔にやられると思うか?」 似長は天を仰ぎ…

10 注意喚起

病院のベッドに腰かけた清光が頭を下げる 「ご心配をおかけしました。僕はこのとおり、なんともないので」 「いや、なんともないことはないだろ」 清光は肩に怪我を負い、包帯で止血されている。腕もあまり動かさないほうがいいとは医者の提案だ 「何があっ…

9 急変した日常

「なぁに? それで清光君に怒られて、へこんでるの?」 夢宙が似長をつつきながら言う 清光に帰られた似長はやることがなくなり、料理を平らげて事務所へ戻った しかし、清光はまだ帰っていないという 事務所にはくつろぐ雷堂とお茶を淹れていた夢宙しかおら…

8 「愛」と「存在」

「ったく、何の目的で僕だけ連れ出して外食なんか……」 レストランの窓際の席で清光は呟いた 彼は似長に呼び出されて嫌々ながら座って彼を待っている 室内だというなのに清光は目深にかぶった帽子を取ろうとしなかった 「ほーい、水おまちー」 間の抜けた声で…

7 奪還

「おー、いるいる」 隠れながらも一つの建物に密集する警官を見ながら似長は呟いた 誘拐犯の居場所は特定していたが、犯行グループは拳銃を所持しているらしい 超能力持ちの情報も入っておらず、一向に動けない状況だった 「どうするんだよ。とりあえず連れ…

6 出撃用意

紫苑に小突かれるまで似長はうとうととしていた 何もない平和を味わうことを中断させられ、やや不満げに似長は紫苑を見上げる 「不満そうだけどそれどころじゃないの!」 紫苑は似長を引っ張って居間に出た 居間にはいつもの顔ぶれに交じって白と八雲の姿が…

5 夜の時間

「道男ってさ、昔スポーツやってたの?」 町内のグラウンドのベンチに座り、駆け回る子供たちを見ながら似長は隣の道男に訊いた 二人はジャージに袖を通し、道男は帽子をかぶっている はた目からすると不良にしか見えないので、人にかかわることは避けている…

4 暴動の報告

翌日、似長と雷堂は共に警察署に赴いていた 頻繁に警察所に赴く彼らは、もう既に警官と顔なじみである 「よ、白ちゃん、八雲っち」 「ちょっと失礼するよ」 「あ! 執行人さん!」 白と呼ばれた女性警官が駆け寄る その後ろから八雲と呼ばれた男性警官も近づ…

3 制圧

街灯で照らされた街は、すでに多くの人であふれかえっていた 政府機関への不満が募った結果である 「落ち着いてください! 静かにしてください!」 警官はメガホンをとって叫ぶが、それも殆どの者が聞いていない 新人と思しき警察官は、メガホンを持ったまま…

2 作戦会議

マンションの一室には奇妙な人々が揃っていた 全員胸元にマークの入った黒いジャケットを着こみ、頭髪を赤でそろえていた そこに入ってきた一人の男 「もう、遅いじゃないですか、一隻さん」 男の名は一隻似長 長い髪を一つにまとめている。その髪色も例外な…

1 赤い髪の男

その姿を見かけたのは偶々だった いつもは素通りするはずの公園に、見かけない人がいたのを見つけたからだ 型が崩れよれよれになったスーツを着たその男性の髪の色は、目に痛いほど赤かった 見かけた青年は気になって彼のもとへ歩み寄った それに気づいた男…

プロローグ

次のニュースです 昨晩、○○町在住の男性、×× ××さんが行方不明になりました ××さんの部屋には「もう限界です、さようなら」と書かれた遺書のようなものが残されており 警察は自殺の可能性もあるとみて捜査を進めています 「短逝執行人」 それが、俺につけら…