バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

逢魔ヶ刻に止まる刻

エピローグ

三年前、とある飛行機事故が原因で彼らは世界の理に背こうとした ある意味では、我々もまた、理に背きたくなるかもしれない しかし 正義はそれを許しちゃくれない 今の世界で何が正しいか 君は見失っていないだろうか この物語は、彼の視点で書かれた、ほん…

19 朝

暗く、暗く沈む 自分がどこにいるかもわからなくなるほど、暗く沈む 「――、――」 どこかから声が聞こえる ああ、違う。これはどこかからなどではなく…… 「朝です、いい加減起きてください」 頭を思い切り殴られ、ようやく兼森は目を覚ました 頭を押さえながら…

18 三年ぶりの月

外はすっかり暗くなっていた 三年ぶりの夜だ。三年ぶりの月が上っている 兼森は後ろを向いた 隊長と一緒に鹿目が出てくるのが見えた 「いやぁ、こうなるとは思ってませんでした」 聞き覚えのある声にそちらを向くと、ハロとスイがそこにいた 「お前ら、壊さ…

17 ライフルと鎖

「兼森!」 豆生田の声が飛んでくる。それに続いて銃声が聞こえ、人形が数体飛ばされた 目の前に襲い掛かってくる人形を、そこに割って入った飯伏が斬り裂いた 横からの人形の奇襲を、数屋がハンマーで殴る 「……」 目まぐるしく起こる戦場のさなかを、兼森は…

16 絶対時計

兼森は自分の目を疑った 開けたホールのような場所に出た彼は、目の前に大きな時計を見る それは、鎖で針を雁字搦めにされ、動く気配が見られなかった 「何だ、これは……」 兼森は呟いた その時、不意に後ろから足音が聞こえ、兼森は振り向いた 白髪の長髪を…

15 誘惑

気が付くと、そこは暗い部屋だった 牢屋と言った方が正しいだろうか。鉄の格子に空間が隔離され、その床に転がっていた 一瞬何があったか兼森には理解できなかった しかし、やがて気が付く。自分がとらわれていることに 記憶を遡る限り、買い出しの帰りに襲…

14 隠し事

仕事を終え、買い出しも済ませた兼森は帰路についていた 一週間経った今でも、あの隊長の悲しそうな顔が忘れられない 彼は、目の前に敵として現れたかつての友人をどう思っているのか 怖くてそんなことは聞き出せなかった 人ごみから逸れ、住宅地に入る なん…

13 関与

「鹿目は三年前、飛行機事故で両親を亡くしているんだ」 椅子についた隊長が視線を無理に上げて話す 無論、兼森が調べていた飛行機事故のことである 「当時はかなりまいっててね。僕も何度か元気づけようとしたけど、まるでダメだった」 「当時から過労に対…

12 動転

次々と人形の頭を撃ち抜く兼森 あれから数か月。市街での戦闘も慣れたもので目まぐるしい活躍を見せる兼森 第4部隊も総出で大量発生中の人形に立ち向かう あれだけいた人形も残りが少なくなっていた 「あと少しだ!気を抜くんじゃねぇぞ!」 豆生田の声が鋭…

11 三年前

兼森は図書館に来ていた 無論、目的はある。「絶対時計」についてだ あの隊長でさえ隠そうとしている「絶対時計」には、何か意味があるのではないのか そう思えて仕方がなかった 太陽が止まったのは今から約3年前 その時に何があったのか、兼森は山ほどの新…

10 隠し事

「新人くんが人形に襲われたぁ?」 間延びした声で飯伏が言う 私服姿の兼森は、隊長によりそのまま基地に連れてこられ、目の前にココアを出されて着席している 「襲ったってわけではないんですけど……」 やや居心地が悪そうに兼森は言った 「んなこといったっ…

9 出会い

久しぶりに休みをもらった兼森は、私服姿で街中を歩いていた といっても、何か目的があったわけではない ただ一人、ぶらぶらと散策したかったのである 人の賑わう中央通から少しそれ、閑散とした街を歩く 斜陽の光が影をおとし、なんだか建物がさびれて見え…

8 先

兼森は基地の屋上でコーヒーを飲んでいた ようやく人形撲滅隊としての自分の仕事と向き合おうとしていた ためらってはならない。人形は、人の姿をしていても人形なのである 「おや、先客がいたとはね」 その声に兼森が振り向くと、隊長が微笑みながら立って…

7 一発

人形が出たとの通報を受け、兼森は仲間と街中に駆り出されていた 既に非難は終わっており、兼森は人形の排除に専念するように指示されていた しかし、まだ人形を壊すことに迷いのある兼森の銃さばきは安定していなかった 「新人くーん? そんなんだとすぐに…

6 興味

幾度かの鋭い銃声を響かせ、兼森は拳銃をゆっくりと下した 目の前に並べられた的には綺麗に中央に穴があいている どこにでもいる普通の軍人だが、兼森はこれが唯一ともいえる特技であった 腰に据え付けたベルトに拳銃をしまい、彼は的を片付けるために歩み寄…

5 変わり者

かちゃかちゃと音を立てて、兼森は自分の銃を点検する 彼の銃は配給されたものではなく、点検も自力で行わなければならないのだ といっても、この銃を手にしてから数年は経つ。もう手慣れたものであった 「あ、いたいた」 不意にそんな声が聞こえ、兼森は顔…

4 感嘆

「初任務、お疲れさまぁ」 飯伏が兼森の頭をぽんぽんと叩く どうにか人形を殲滅させ、それを抱えて軍部まで向かい、ようやく休憩をもらえた兼森は疲れていた なぜ人形を持ち帰る必要があるのかと問うと、「今後の対策」とだけ隊長から伝えられた 「やるじゃ…

3 不慣れ

通報をききつけ街に出ると、多くの人々が逃げ回っていた その人の波にちらほらと見える、動かない人影 兼森はどうしていいのかわからず狼狽えていたが、後ろから豆生田が抜き去り、人の波に飛び込む 「いいか、その動いてない人が人形だ! 容赦はいらねぇ、…

2 入隊

一週間後、兼森はすべての荷物を抱えて第4部隊を訪ねた 豆生田と名乗った男がすぐに出てくる 「よぉ、新入り。今日からだったな」 「はい、よろしくお願いします」 とりあえず荷物の整頓をしようと自分の棚に荷物を置くと、後ろから腕を引っ張られた 「へぇ…

1 栄転

今、目の前に張られた紙を、彼は目をしばたかせながら見ることしかできなかった それは軍隊内部での異動案内 そこに自分の名前が刻まれていたのである それもあろうことか、「人形撲滅隊」への異動である 「よう、兼森! やったじゃねぇか!」 後ろから同僚…

プロローグ

あの日、世界の時計は突然壊れ、太陽が止まった 強制的に動く時計の針を信じる理由はどこにもない そんなものに振り回される僕らの生活は 時計の針から解放されたように見えて 実際、それ以上の力で押さえつけられていた 五年前の大地震も 三年前の飛行機事…

【逢魔ヶ刻に止まる刻】用無しの軍人

修理に出していた軍刀が戻ってきた いや、正確にはもう使えなくなった軍刀を売り払って新しいものを調達した 人形を壊す度に軍刀も壊してしまうので、そろそろ銃器の使用を検討したいと言ったら、同期に笑われた はっきり言ってやりきれない。僕は思う 対人…

【逢魔ヶ刻に止まる刻】人形と人間

とある昼下がり(太陽が延々と夕刻の位置で止まっているのに昼というのもおかしな話だが) 食事がたまたま一緒になった別部隊の部下が問いかけた 人形と人間をどうやって見分けているのかと 僕は簡単に答えた 目が肥えてくるとわかるものだと 実際、問われる…

【逢魔ヶ刻に止まる刻】人間の廃棄場

「至極単純なものであります」 僕はあえてそう言葉を選んで発した 突き刺さる上官の視線を半ば無視する形で受け止め、言葉を続けた 「我々第4部隊は人形を排除するための組織であり、人としての情を廃した面子でありますから」 通勤途中にいくつもの人形に…

登場人物まとめ(12/27)

兼森 友弘 本作連載の主人公 真面目で常識ある軍人だが、突然、変わり者だらけの第4部隊への編入を言い渡される 武器は銃器。拳銃とショットガンを常備している 小早川 悟 本作単発および番外編の主人公 第4部隊をまとめる隊長。自身も変わり者だと言う 武…

逢魔ヶ刻に止まる刻 まとめ(1/18)

主要ワード 斜陽、人形 世界観 現代世界のパラレル ある日突然すべての時計が止まり、太陽が夕刻から動かなくなってしまった 同時に人間を襲う「人形」と呼ばれる存在が出現する 主人公たちは人形を倒しながら、再び太陽を動かす方法を模索する 用語まとめ …

【単発】逢魔ヶ刻に止まる刻

目が覚める 太陽は昨日眠った刻にあった位置から数ミリも動いちゃいない もうこうなって何度目の「朝」なのだろうか 赤い光を避けるように僕は奥の部屋へと引っ込んだ それは唐突な出来事だった すべての時計が壊れ、機能しなくなり、同時に太陽が日の入り刻…