バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

24 天才少女

「暁ー、虚空ー」

いつものように二人の肩を叩く雲外。徐々にではあるが、虚空はそれに顔をほころばせることができるようになっていた。

「今日の数学、分かったか?」

「お、己はさっぱり……」

「教えてほしいんだろう。ノートはとってある」

ノートを取り出す暁に、「やるぅ!」と雲外は肩を組んだ。

 

「今週末、どっかで勉強会しようぜ!」

「勉強会……。いいですね。遠賀川さんは苦手な科目ってあるんですか?」

「……国語。特に、小説」

「へぇ、意外だな。お前、人の気持ちに敏感な所あるから、得意だと思ってた」

逆だ、と暁は思う。

人の気持ちは単純ではない。絡み合う心の「声」を全て聞いてしまう彼にとって、それを一つに絞ることは難しかった。

 

「……おやぁ?」

その時、聞いたことのない声が聞こえて、暁は振り返った。

三つ編みに眼鏡の、しかし素行はそこそこ悪そうな女子がこちらを見ている。

雲外と虚空は彼女を知っているようで、笑顔で手招きした

「久しぶりだな、朝霧!」

陣原さん、今日はきていらしてたんですね」

「天才たるもの、偶には皆の様子を伺っておきたくてね」

 

「ふむ、そちらの生徒が噂の転校生か」

転校生、というには既に時期も遅かったが、暁は立ち上がって朝霧、と呼ばれた女生徒に寄る。

遠賀川暁。よろしく」

陣原朝霧だ。よろしく頼むよ」

朝霧が差し出した手を、暁は握る。

その時、彼女はぐいっと暁を引き寄せて耳打ちをした。

「堅くなることはない。私も、君と「同じ」だ」

何のことだ、と言う前に彼女は暁を放し、踵を返す。

 

「勉強会を開くのであれば私も呼んでくれたまえ、雲外君。喜んで教えてあげようではないか」

朝霧はそれだけ残してどこかへと立ち去って行った。

残された暁は、眉間に皺を寄せ、彼女の言う「同じ」の意味を考えていた。