バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

文章特訓SS 戦闘描写編

振り抜かれた細い十字架の間を潜り抜け、腕を伸ばす。だがそれより速く横から蹴りが飛んできた。ガードする余裕はあった。威力もさほどない。最初から当たらないつもりの蹴りだったのだろう。
「流石、絵空」
「……」
回転して振り下ろされた十字架をかわし、一度距離を置く。
みぞれの戦闘スタイルを、俺はまだ熟知しているわけではない。というか、カゲとやり合うときは大体発狂しているので、冷静な手を見る機会が少ないのだ。本当のみぞれなら体より先に頭が回る。そう、例えば、
「ちょっとだけハンデ貰っていい?」
指を鳴らしたみぞれの上空に現れる幾つもの十字架。
そう、例えば、こんな風に。
「魔法を使うのは反則じゃないのか?」
素手でやり合ったところで、音無家次期棟梁に勝てるわけないじゃないか」
振り下ろされた腕に従うように、十字架が降ってくる。素早く切り返しながらみぞれとの間合いを詰めると、ジャブ、ジャブ、ストレート。
十字架で拳をはじくと、みぞれは低い位置にそれを持ってきて回す。飛び上がってかわしたが、強い風が下方から襲い掛かり、大きく吹き飛ばされた。
「重っ……!」
みぞれの口が動く。筋力が足りないんじゃないのか。魔法に筋力が関係してるかは分からないが。
地面に突き刺さった十字架をあてに着地すると、そのうちの一本を引き抜いて再び間を詰めた。剣のように競り合う二本の十字架。神が怒る? 俺はとうに地獄送りなのだ。
「このっ!」
みぞれの手にぶれが見えた。横から襲い掛かる十字架に、俺はあえて力いっぱい十字架を下から掬い上げるように打ち付けた。
舞い上がる二本の十字架。みぞれは素早く地にささった十字架を引き抜く。
宙の十字架が落ちた時、俺たち二人は静止していた。俺は額に切っ先を向けられ。みぞれは俺に肩口を掴まれ。
「……あーあ。また負けちゃった」
みぞれは十字架を捨てた。周りの十字架が皆光となって消えていく。コンマ数秒の世界だったが、俺の手がみぞれより速かったのは互いに分かっていた。
「もう、手加減してよね、鬼!」
「手加減しては特訓の意味がないだろう」
俺は踵を返して歩き出す。後ろからついてくるみぞれはすぐに機嫌を直した。
今日のホットミルクは、特別甘くなりそうだ。