バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

文章特訓SS 情景描写編

つと、流し込む紅茶の味が甘い。立ち上る湯気は窓の外に散る正反対の存在と同じ色をしている。
「遠くからご苦労だったね。疲れていないかい」
「奉仕対象の命令です。そこに疲れは関係ありません」
俺の返事に夢岡氏は困ったように首を振った。「これではまるでロボットだ」と付け加えながら。
夢岡輝尾。音無家の奉仕対象の一人にして協力者。探偵にして異能力者。探偵業と異能力者管理施設の施設長を同時に務める、頭のいい人だ。月に一度、地方にいる職員から報告書を受け取る際に我々を呼び、チェックの手伝いを任せる。本当なら寺洲おじさんの仕事だったのだが、彼が原稿に追われているそうなので代わりに足を伸ばした次第だ。
「しかし、寺洲さんもそうだけど、君が来ると安心するね」
「それは、外見に生じる変則的な見解が生まれずに済むから、ですか」
「そう。僕の眼を見て怖がらないのは君くらいさ」
 夢岡氏の眼は特殊だ。曰く、その目で見つめられたものは嘘をつけなくなる、と。ところが俺がその目を見たところで怖くもなかったし、そもそも秘密はあれど嘘はあまりつかない自分には相性が悪かった。これを夢岡氏は大変気に入ったのである。
「もうすぐ職員が来るから準備をしておいてくれないかな。今日は風浜君が買い出しに出ていてね」
「分かりました」
白を基調とするすっきりとした明るい空間。事務所らしい空間といえる。窓から入り込む青空は綺麗なのだが、生憎今、空は灰色だ。
「それから少しお話をしよう。君の調子も見ておきたい」
夢岡氏はにこにこと笑ったまま資料を整頓しだす。俺は一言返事をすると、応接ソファから立ち上がった。
「……雪、止みませんね」
「君の今の住まいでは珍しくないと聞いたけれど」
雪は嫌いではないが、好きでもない。極寒を閉じ込めた結晶が降る空は、何故か我慢している時より暖かいから。