バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

23 守るものと守られるもの

 息をひそめる。足音を殺す。この先に、我等の村を荒らした忌み子がいる。あの時はまんまと逃がしてしまったが、今度こそ討ち取ってやらねばならぬ。
 素人の考えたハンドサイン。明かりも消えて、声も聞こえない。やるなら今だ。唾をのみ、障子を開けた。しかしそこには。
「……いない……?」
そこにいたはずの標的の姿がない。布団を敷いていないあたり最初から寝る気などなかったようだが、一体どこに?
「やーっぱりきやがったか」
いや、いる。奴らではないが何かが。そう思った時、部屋の梁から何かが落ちてきた。
「寝込みを襲うなんざ、善人の所業じゃねぇなぁ」
霞む月すらも捉え反射する金の瞳。男はどこからともなく拳銃を取り出し、襲撃してきた男たちの手元を的確に狙って武器を弾き飛ばした。
「伊藤兄、あとはてめぇの領分だ」
「石川、ありがとう」
腰が引けている男たちの後ろから、浩太は返した。

 

 石川は忌み子に救われた人間だった。
だから忌み子と自分を重ね合わせ、嫌われる忌み子に手を差し伸べ続け、守り続けてきた。
石川を救った忌み子は、まだ自分が力を持つ前に殺された。だから、あいつの分も生きて、救ってやると決めたのである。ある意味で、石川が四神の申し子に選ばれたのは必然だったのかもしれない。

 

 霞む月を石川は見上げる。同じ月を、たぶん今頃どこかで自分の隊士である彼らも見ている。
「殺させやしねぇよ。忌み子だろうがなんだろうが、理不尽に殺されていい人間なんかいちゃいけねぇんだ」
何度も死にかけた自分が吐くと重すぎるな。石川はそう思いなおし、自嘲した。