バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

44 黒い怪物

 鍔競り合い。怪物の牙と、人間の凶器。
 数を絞ってきたとはいえ、先方の数の多さも予想していなかった。
「進めないっすよ、こんなのぉ!」
「いたるところに何かを仕掛けているということか。でも、無暗に武器庫も展開できないな」
「元を叩くしかないかもしれないね……」
浩太は眼前の五月を見据える。彼は指をはじきながらこちらを見下ろしている。

 

「ち、しゃあねぇ。おい、カワウチ!」
「はいっす!」
「いったん引け! 俺の後ろにつくんだ!」
剣を取り出しながら田辺は言う。
「何言うんすか! そんなことできないっす!」
「違う、戦闘から引けと言ってるわけじゃない。後ろに下がって周囲の音に集中しろ。手掛かりがつかめるかもしれねぇ」
「なるほど、それなら」
『させないよ』
黒い怪物が二人に迫る。大口を開いて牙をむいた瞬間、その頭が無残にもはじけ飛んだ。拳銃を構えていた石川が助太刀に入ったのだ。
「田辺、『銃の間』のカギを寄こせ。あの数が一気にこっちに来られたらお前ら二人じゃどうしようもねぇだろ」
「わりぃ、任せる」
田辺の手のひらから放り出された光を石川は受け取る。瞬間、彼の周囲に銃器が立ち並ぶ。
「カワウチ、うるさくなるがやれるか」
「なめないでほしいっす! あたしは、この怪物を倒して「一人前」になるんす!」
「……上等だ」

 

 際限なく生み出される怪物も、端から端までたちどころに銃弾と剣によってかき消される。少し前線を押すことができるようになってきた。
『手数が増えたくらいで有利になったと思わないことだよ。「四凶獣」の魔力は無尽蔵だ。よほどのことでは倒れない』
「だろうな。そりゃこっちも実感してるよ。けどよ、ここでお前ら超えなきゃ「神様」じゃねぇんだ、俺たち」
「……「かみ」?」
ふとカワウチがつぶやく。五月の視線がそちらを向いた。
「田辺さん、「かみ」っす。「紙」の音が、ここにないのに聞こえるっす!」
五月の目に初めて動揺の色が浮かんだ。それを見逃さなかった田辺が笑う。
「なるほどな! 石川、『銃の間』に火炎放射器を仕舞っている! 使え!」
「了解!」
石川の指揮に合わせて放たれる炎に怪物が身もだえる。五月は抱えていた鞄からスケッチブックを取り出して放り投げた。瞬間、真っ黒に塗られたページが膨らみ、いままで対峙していた怪物が生み出される。
『後方を止めろ! 急げ!』

 

怪物の標的が三人に集中する。五月は忘れていた。
 敵は、炎だけではないことを。
『うわっ!?』
五月の身体に絡みつく鎖。後ろに気を引いている間に華村と浩太が怪物を抜いて射程に入っていたのだ。
「浩太さん!」
怪物が戻る余裕はない。浩太は拳を握りしめ、五月に肉薄した。

 

 五月の肩口から、拳ほどの怪物が牙をむいた。