バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

45 陥落

「……」
「……」

 

五月が恐る恐る目を開けると、自分の襟首をつかんだまま殴ってこない浩太がまだそこにいるのを見た。最後の砦として仕込んでいた罠にもかからず確実にとどめを刺せたであろうはずなのに、この男は寸でのところで自分への攻撃をやめたのである。
『……とどめ、ささないの?』
「……」
浩太はつかんでいた襟首を放した。
「僕は、忌み子を救いたくてここまできた。それと君をここで倒すことがイコールでないのなら、とどめを刺す必要はないと思っただけだよ」
『変なの。四神の申し子なら、四凶獣を野放しにすることがどれだけ危険か分かるでしょ?』
そう言いながらも、五月は持っていたスケッチブックを地面に放り捨てる。

 

「……君がそういうなら、うちに来る?」
「「「えっ!?」」」
全員が耳を疑った。浩太は微笑んで手を差し出している。
『……正気?』
「勿論。君を合理的に監視できるうえに、君の目的である人類の平等化の手伝いができる。君にとっても悪い話じゃないと思うんだけどな」
『……』

 

五月はいちど周囲を見回した。華村も、田辺も、石川も、そこにいる誰もが首を振りながらも笑っている。
『……油断しないでよ。もしかしたら、僕は君の寝首をかくかもしれないよ』
「やってみればいいさ。何度でも、相手になってあげるよ」

 

「混沌」は、陥落した。