バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

16 彼女を変えた「何か」

「……もしもし」
その夜、丸久は久しぶりに電話をかけていた。
緊張しいの丸久は電話を嫌う。だが、大事なことと緊急のことは電話の方がいいとも思っていた。
『もしもし? 夏子ちゃんからかけてくるなんて珍しいね』
「相談事が、あって」

 

電話の相手は幼馴染のネロ・北河。日本人の父とイギリス人の母を持つ。幼馴染と言っても、小中はネロはヨーロッパで過ごしていたので帰国子女というものだ。
芸能に携わりたいと現在は芸能学校のプロデュース科に通っている。それと同時に行っている配信者活動は、整った顔立ちに似合わず破天荒な企画を打ち立て遂行するスタイルが人気を呼び、彼自身が人気配信者となっていた。
『へぇ、夏子ちゃんが絵を提供できるようになるなんてね。よくそんな勇気が出たなぁ』
「からかってるの?」
『全然。絵を描くことと機械を扱うことに関しては、僕は君以上の人を見たことないからね。それが表に出るのは夏子ちゃん自身の勇気次第だと思ってたから。それで?』
「その絵を提供していた人から、ユニットを組むからMV制作を協力してくれって言われて。北河君の意見も聞きたいの」

 

『迷わなかったの?』
北河の、ほんの興味だった。
『ユニットのMVなんて、人によっては視聴率が一気に上がる。それに協力することに、怖さは感じなかったのかい?』
「怖かった」
北河は目を瞬かせる。丸久が「即答した」ことに意外と感じたのだ。
「でも、音源聞いたら、全部吹き飛んだ。今まで一枚絵だけの提供だったけど、映像、作ってみたいと思ったの」
『……』
そして感じた。丸久は本気だ。そして、あの丸久にここまで言わしめた「ユニット」。自分の知らない何かがある、と。
『……パソコン上げてる? アップローダで音源送ってくれない?』
数分後、北河の元に一本の音源が送られてきた。