バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

17 救世主、集う

ユニットを組むにあたって合わせたい人がいると虎屋に言われ、羽鳥は安藤の家に呼ばれた。安藤と虎屋と部屋で待っているとチャイムが鳴ったなので虎屋は慣れた様子で出迎えに行く。
「いつも、こういう感じなんですか?」
「うん。お客さんが来たらイズミが応対して玄関口で追い返してくれる。一人の時はイズミと君以外入れないから」
「……マルヒサさん、でしたっけ。初めてお会いするんですか?」
丸久さんとは君よりも前から顔見知りだよ。今日初めて会うのは、丸久さんが連れてくる「協力者」とかいう人」
事前にイズミから「羽鳥に会わせておきたい人が二人いる」と聞いていたが、そのうち一人は中心人物の安藤も知らないらしい。少し不安がよぎる。

 

そうこうしているうちに話し声が近づいてきた。ドアが開く。イズミの後ろから入ってきたのは、眼鏡にみつあみの生真面目そうな女の子と、顔だちの整った男の子。
「……って、動画投稿者の……」
「ん? 僕の事知ってるの?」
男の子の方は顔に見覚えがあった。話題の動画としてたまに見かける程度だが、名前は知っている。
「さ、全員揃ったし、自己紹介しようか!」

 

女の子は丸久夏子、男の子はやはりネロ・北河と名乗った。丸久は過去にも安藤の楽曲にイラストを提供していたという。ネロはその丸久を伝にしてここにたどり着いたらしい。
「君がひなちーさんかぁ! 君の歌、聞いてるよ!」
「わ、私の歌をですか?」
「うん。夏子ちゃんに教えてもらってから、一発ではまっちゃった」
ニコニコ顔で羽鳥の手を取る北河。イズミが咳払いをしてやっと離れる。

 

「よしくんと立てた計画はこう。私とよしくんで制作した音楽をひなちーに歌唱してもらって、なっちゃんが動画制作。ネロくんにはスケジュールや体調管理なんかのプロデュース面をお願いする予定よ」
「え、北河さんが宣伝した方が爆発的にのびるんじゃ?」
「私もそういったんだけど、彼がねー」
虎屋の視線を受け取った北河が興奮したように口を開く。
「君たちの歌は、最初から有名な人の手を借りなくても実力で伸ばしていけると信じているんだ。だから、僕は本来やりたかったこと、「自分の知名度を使わずにプロデュースする」ことに挑戦したいんだ!」
「こ、向上心がすごいですね……」

 

「そういうわけで、私とよしくんとしては、今ここにいる5人で「ユニット」として活動したいの。どうかしら?」
虎屋の問いかけに羽鳥も丸久も北河も頷く。
「素敵なメンバーがそろったんです、足を引っ張らないように、頑張ります!」
「私も、映像制作の勉強、頑張ります……」
「皆に頼ってもらえるよう、僕も一肌脱いじゃうからね!」

 

「で、ユニット名なんだけど……」
そこで、今まで座り込んでいた安藤が立ち上がった。
「……俺から言わせてくれ」
「あら、珍しい。構わないわよ」
虎屋はニコニコしている。三人は興味津々に安藤を見た。
「俺たちの歌が誰かを救うように願いを込めて、「救世主」の意味を持つ言葉——」

 

――“salvatore“