バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

38 最低なリーダー

「Beau diamant?勝てるよ」
さらりと吐いた安藤の言葉に北河も虎屋も滑る。
「そ、そんなに簡単に言っていいの?」
「確かに悪いところばかりではない。作詞作曲を務める菊園の実力は本物だと思う」
パソコンのキーを打ちながら安藤は続ける。画面に映ったのはBeau diamantの動画チャンネル。
「将来的にプロになると歌ってるだけの才能も努力も兼ね備えているのは分かる。テクノポップは音選びが似通る中で個性を出すのが難しいからな」
「そこまで賞賛しておいて、勝てるの?」
「勝てる。「歌が壊滅的にヘタクソ」だからな」

 

「喜咲華怜がリーダーでボーカルと言ったな。音階を大きく外すほど下手ではないが、技術面が壊滅している。おまけに楽曲投稿開始時点からほとんど成長していない。初心者で基礎もなってなかった羽鳥と並べられても、俺は羽鳥を取るね」
「……きっと、彼女自身が学習する気がないのね」
虎屋は呟いた。
「内部からこうして告発者が出るってことは信頼も置けていない。多分、チーム運営も何かしらの力で抑えてる状態だわ」
「イズミちゃんって、そういうところ敏感だよね」
「ええ。……私の嫌いなタイプだからね」

 

「とりあえずアンチに関しては正体が割れたから、運営に報告してる。垢バンもそう遠くないと思う」
「問題は、それで彼女がどう反撃してくるか、だな」
安藤は口元に手を持ってきた。
「音楽関連以外にも、目立てるなら手段を問わないチャンネル構成。正直、音楽で売っていく気はないはずだ。となれば、動画内で批判、脅迫をしてくる可能性は否めない」
「その時は通報するよ。まったく、これじゃ作業だね。音楽とは関係ないのに」

 

安藤は顔を上げて二人を見た。
「羽鳥と丸久は任せた。羽鳥の緊張も解けたから、次回は予定通り『Stand up!』でいく。くれぐれも、二人にこの話が漏れないようにな」
「了解。安藤君もごめんね」
「構わない。……それと、虎屋」
安藤はわずかに視線を逸らして言った。

 

「……取り繕う必要は、もうない。少なくとも、この問題まで我慢することは、お前にはできないはずだから」
「……ごめん」
虎屋は小声で答えた。