バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

18 殺害予告

「お前ら、一応裏世界の人間なんだから、この界隈の事情位わかってるよなァ?」
裏事務所で煙草をふかしながらハシモトは尋ねる
「当たり前だろ。何年ここで生きてきたと思ってるんだ」
アイラが噛みつくように答えたのを、ハシモトはケラケラと笑った
「よーし、そういうことなら話は早いな。進めるぞ」

「お前ら、『水仙』ってやつ、知ってるか?」
唐突なその言葉に、アイラは首を傾げる
スイセン?誰だそれ?」
「存じてはいます。確か、殺人鬼の一人ですよね」
「お前、どこからその情報仕入れてるんだよ」
「ハシモトさん以外に仕入れてませんが」

「そ。『水仙』はここいらで暗躍する殺人鬼に一人だ。表の顔は作家だな」
「また貧相な仕事してるなぁ。そんなんで人殺せるのかよ」
「なめてかからない方がいいぞ、『折り鶴』。『水仙』は殺人鬼の中でも、「殺人鬼殺し」の指折りのプロだ」
「そんなプロがいるんですね……。で、その『水仙』がどうしたのです?」

「……これ」
ハシモトがそう言って差し出したのは、一冊の本だ
受け取って表紙を確認する。それは、
「「殺人鬼・マリーゴールド」……!」

「『水仙』は顔こそ出さないが、最近その小説で話題になっているらしい。で、ここからが重要なんだが」
煙草を灰皿に押し付け、ハシモトはルソーを見た
「そのシリーズには、当然ながら敵にあたる組織や殺人鬼が出てくる。主人公のマリーゴールドは、その敵を殺していくわけだ」
「それが、今回俺たちを呼び出したのと関係あるのかよ」

「……最近、よく殺人鬼が死ぬ話を聞かないか」
話題を変えるようにハシモトは言った
「ああ、その話は最近よく聞くような……」
「殺人鬼の中でも屈指の実力者が、最近どんどん殺されているって、あれのことですよね」
「そう。で、さ。それが気になって調べていたら、とんでもない事実にぶちあたった訳」

「小説……殺人鬼……、まさか」
ルソーが顔を下げる。同時に指が動き、ページをめくりだした
「お、おい、なんだよ『弁護士』、何に気付いたんだよ」
「流石、察しのいいやつだ。今から説明してやるからよく聞け、『折り鶴』」

「そのシリーズに出てくる敵の殺人鬼の戦法が、実際に殺された殺人鬼の戦法によく似ていた」
「……は?」
「それだけじゃない。時系列順に並べたら、小説と実際の死亡順番が一致した」
「ってことは、その小説書いてるやつが『水仙』で、あいつが実際に殺したように書いてるってことかよ!?」
「殺されるのをはたから傍観してるかもしれねェが、それはこの際どうでもいい」

その時、ルソーがページをめくる手を止めた
「……これって……」
「おい、『弁護士』、どうしたんだ?」
「気付いたか、『弁護士』」
それは、小説の最後の方。あとがきと共に書かれた、次回予告

『日常に潜み、弁護士の皮をかぶり罪を払う振りをして殺害を目論む殺人鬼『血桜』。彼の包丁とマリーの切り札が、うなりを上げる』

「……そうだ。俺が予測するに、次の標的はお前だ、ルソー」