バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

凛とした殺人鬼2

エピローグ

あの日々は間違いなく災難だったけど 今でも私の心にずっと残っている それは私と、私にそっくりな彼女の それはとても壮大な追いかけっこだったのかもしれない あの経験は、間違いなく私を後押ししていた 大丈夫、大丈夫 諦めなければ、うまくいく そう、教…

34 夏の終わり

「皆さん、今まで本当にありがとうございました」 大荷物を背負うマヨイは、笑顔でヤヨイたちに頭を下げた 「おかげで、サクライ町に戻ることができます」 「道中気を付けてくださいね」 「この夏のこと、忘れんじゃねぇぞ」 「またお時間があいたら、遊びに…

33 真相

マヨイの心が迷って揺れ動いているとき、ハシモトはとある情報を手に入れていた それは、マヨイの父の死について 首を吊って死んだのは間違いなかったが、その前に誰かに後ろから絞められた跡が残っていた そう、マヨイの父の死は『リース』によるものであっ…

32 どんでん返し

ドラム缶に引っかかり、また転びそうになる それでも姿勢を起こし、無理にでも次の一歩を踏み出す 後ろからは屈強な男たちが追ってくる 怖い。彼女は思っている。でも、逃げ切らないと、死んでしまう どうしてこんなことになってしまったのか 彼女の中にその…

31 決断と非情

「上官」 一人の男が『猿回し』に近づく 『猿回し』は幾多ものモニターから目をはなし、男の方を向いた 「どうした」 「本当にあの女は、協力してくれるのでしょうか」 「なんだ、そんなことか」 『猿回し』は近くに置いてあった紅茶を一口含む 「心配はいら…

30 揺れ動く心

「ただいま」 マヨイはそう一言呟き、ハレルヤ家へと帰ってきた ハシモトはすでに帰っていたが、残りのメンバーがすぐに駆け寄る 「マヨイちゃん、大丈夫だった? 襲われなかった?」 「大丈夫です。ちょっと、疲れたけど」 態度は明らかによそよそしくなっ…

29 招待

「ほら、飲みな」 目の前に置かれた紅茶に、マヨイは戸惑いを見せる 「ほーら、俺の入れたお茶が飲めないのかー? うーん?」 相手はマヨイの真向かいに座り、自分の分の紅茶を飲んだ 『猿回し』、と相手は名乗った。本名ではないことは明白だった おそらく…

28 直感

「……はぁ」 公園のブランコに揺られ、マヨイはため息を吐いた 信じたくなかった、今まで自分を助けてきてくれたヤヨイたちが父を奪ったなどと 「何も考えずに出てきちゃった。どうしよう」 マヨイはブランコを降り、公園を出た 人が多い街並みを歩く 明日は…

27 父の存在

「私のお父さん、カルミアの子会社に務めてたんです」 マヨイは口を開いた 平々凡々な家に生まれ、育ってきたマヨイにとって、父親は畏怖と尊敬の対象だった 無口ではあったが、家族思いで、誰よりもマヨイをかわいがってくれた 「でも、ある日を境に突然経…

26 再会と真実

「ねぇ、せっかく来た客人にこんな対応は手ひどいと思わない訳?」 アイラの鎖で雁字搦めにされ、なおも笑顔を崩さずに名瀬田は言った 「貴方、自分の所業を忘れたわけではありませんよね?」 「散々俺たちを巻き込んでおいて、今更そしらぬふりできるかって…

25 「カルミア」と彼女

ガチン 鋭い音を立てて『匠』ののこぎりとフブキの包丁がぶつかり合った 「へぇ、あんたがあの『弁護士』がかくまってた姉貴とかいうやつか。結構元気じゃねぇか」 「貴方、何者なの。私のことを知ってるって、どういうこと」 「ふん、いいぜ。冥土の土産に…

24 招かれざる客

「あ? 今度はのこぎりだ?」 アイラはいつもと変わらず威圧的な態度でハシモトに接する 「お前、その態度どうにかした方がいいぞ。浮いた話も逃げちまう」とハシモトはからかったが、アイラは何を言われているのかわからなかった 「のこぎり使いの『匠』。…

23 殺人鬼の会話

「嫌です、もうこれ以上は外に出たくありません!」 フブキの足元に隠れて縮こまるマヨイ それもそうだろう。外出の度に襲われてはいい加減学習もする フブキは困ったようにルソーを見るが、ルソーは首を振った 「本人がこう言ってるのでは仕方ありません。…

22 無償の愛

「マヨイさん!」 後ろからそう呼び止められ、マヨイは振り向いた ヤヨイが立っていたことを認識すると、彼女は『篝火』から離れ、ヤヨイに抱き着いた 「ヤヨイさん! よかったぁ、無事だったぁ……!」 「マヨイさん、ごめんね。頑張ったね」 「ありがとう、…

21 『閃光』

「いい加減諦めようとは思わないのかね」 後ろから声を投げる『閃光』 その声もマヨイは振り切り、息を切らして走る 「自分の命のことなのに、諦められるわけないでしょ……!」 「君は死にたいと思ったことはないのか」 『閃光』は背中の装置から延びるコード…

20 『火花』

熱の中を風が切り抜ける ヤヨイは一歩ずつ下がりながら『火花』に攻撃を試みるが、彼はホースを振り回して炎をあげるために近寄れない 「おらおら、どうした『仕立て屋』! それでも殺人鬼かよ!」 挑発的な『火花』にいらだちを覚えるが、打つ手がない 「こ…

19 分かれ道

「マヨイさん、ちゃんとついてきてる!?」 「な、なんとか……」 ぜーぜーと息を漏らしながらマヨイはヤヨイの後をついて走っていた 無論、『火花』と『閃光』を名乗った男二人もついてきている 向こうが背に重機を抱えている分こちらが有利に働いているのだ…

18 双子と双子

「ごめんね、ルソーたちが頓珍漢なせいで貴方にまで被害が及んじゃって」 「いえ、私もわかってて乗りましたし、ルソーさんたちは悪くないです」 商店街を周るマヨイとヤヨイ。先日のお詫びにヤヨイが何かおごろうとしていた 「怖くなかったの、そんな役割担…

17 双子の殺人鬼

「殺人鬼にも双子がいるんですか」 怪訝そうな顔をしてルソーは言った 「お前、そんな怪訝な顔しなくてもいいだろ」 少し馬鹿にしたようにハシモトは返す いつもと変わらないハシモトの事務所で、ルソーはコーヒーを飲みながら資料を見ていた 「兄弟の一人が…

16 説教の時間

「素人連れていく必要はなかったでしょうが! 馬鹿!」 ハレルヤ家の玄関先でルソーとハシモトが正座でヤヨイの説教をこんこんと聞いている ヤヨイの後ろにはマヨイが震えながらしがみ付いていた 『リース』をめぐる一連の流れをマヨイから聞いたヤヨイがわ…

15 『リース』

「首絞め専門殺人鬼、『リース』ですね」 ルソーは包丁を向けたまま男に声をかける 「『リース』……?」 横で話を聞いていたマヨイは、その言葉に血の気が引いた まさか、二つ名のある殺人鬼に自分が狙われるとは思ってなかったのである 『リース』は手に持っ…

14 適当な算段

「いざ一人にされると怖いなぁ……」 マヨイは一人歩きながら呟く 彼女は今、ルソーに言われて街中を歩いていた 「何も考えずに街を歩いていてください」 ルソーからの最初の指示はそれだった 確かにミカガミ町の街並みをちゃんと見ておきたかったので承諾した…

13 新たな殺人鬼

「……」 「……」 マヨイと草香は互いに碁盤を挟んで黙っていた ぱちん、ぱちんと石を置く音だけが響く その横でばさりと音を立ててハシモトはルソーに資料を投げ渡した フブキに隠すことがなくなり、今ではハレルヤ家にハシモトが直接出向くようになっていた …

12 強運の稼ぎ方

「へェ。そこまでくると怖いもんがあるな」 事務所に上がり込んだマヨイとヤヨイにコーヒーを振る舞い、ハシモトはいつもの調子で言った 「お前の強運、最早都市伝説レベルなんじゃねェの?」 「ちょっと、さすがにそれは失礼だと」 「いえ、いいんです。私…

11 強運の持ち主

「にしてもよ、マヨイの力って、そんなに脅威的にも聞こえないんだけどな」 アイラがぽつりと呟く それに草香が答えた 「なめてかからないほうがいいですよ。ある意味では、私たちより脅威かもしれない」 「でも、例えばあれだろ。サイコロの出目がわかると…

10 悠長と警戒

「ごめんね、マヨイさん。誘っておいて荷物持たせちゃって」 「いいんです。このくらいなら私も平気ですし、むしろお手伝いさせてほしかったんです」 手芸用品店を出、ヤヨイとマヨイは歩く 「あら、ヤヨイちゃん! 貴方双子だったっけ?」 近所の人が揃って…

9 心器の啓示

「はぁー、そいつは災難だったな」 アイラが感心したように声を上げる いつものように食卓を囲ったハレルヤ家 中央に置かれた鍋からシチューを掬い上げ、フブキがついで回る 「安易に誘った私もいけなかったわね。これからの行動は気を付けるわ」 「というか…

8 彼女の成長

「へぇ、サクライ出身なんだ。あのあたりは桜が綺麗よね」 「は、はい……」 柔らかく笑うフブキに、申し訳なさそうに視線を落とすマヨイ とあるカフェのテラスで紅茶を飲む二人は、ルソーの合流を待っていた 本来ならばフブキだけでもよかったのだが、彼女自…

7 前世の双子

「私の「仲間」だった弥生さんには、「如月真宵」さんという双子の妹がいました」 草香の言葉にマヨイを除く全員が戸惑いながらも納得していた 「ここにきてまた「草香の仲間」かよ」 「まぁ、これまでもあったことですからね」 「なんか、今更って感じだよ…

6 居候

「はい、紅茶でよかったかしら」 目の前に置かれた紅茶に手を付けることもできず、マヨイは震えていた 「うーん、やっぱりショッキングではあったかしらね」 フブキは腕を組んで首をかしげる 「仕方ねェだろ。人の首が飛ぶなんてレアにも程があるぜ」 家に上…