バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

凛とした殺人鬼

エピローグ

ねぇ、知ってる? 知ってる。赤い髪の殺人鬼の話でしょ? あの殺人鬼はね 悪い人しか襲わないらしいよ 正義のヒーローみたいだね 昔はそんなことなかったんだってさ 不思議な話だね 「どうも、『弁護士』です。ちょっと、殺しに来ました」 ――凛とした殺人鬼…

84 その後の話

記者会見場に現れるスーツ姿の重役 今回、カルミアグループが壊滅的な打撃を受けたことに対する説明が行われようとしていた 全員が一様にペンを持ち、メモを握り、カメラを向ける 「犯人グループの所在に関しては現在調査中です」 無論、そんなことはなかっ…

83 そして、

ドン 地に響くような音を立ててルソーは立ち上がった それに好奇の目を向ける当主 ルソーは自らの両腕を左胸に押し当てた ズルズルとあの嫌な音が、しかしいつもより長く溢れ出す そうして出てきたものは、いつもルソーが使ってた包丁ではなかった そう、そ…

82 反撃

「……ヒヒッ、さすがに多すぎやしねェか?」 家を囲む侵入者を薙ぎ払いながら、ハシモトは呟いた 「いくらなんでも、この人数を相手にするほど俺の気力は強くないぜ?」 そういうと、ハシモトはポケットから何かを取り出した 「……一人なら、な」 「伏せろ、『…

81 戦況は

降り降ろされた一撃を、ルソーは両手に持った包丁で受け止めた しかし、その重さ故に飛びのかざるを得なかった 兵器を扱うグループの当主だ。あっさりと倒れてくれる相手ではないことは明白であった 手のひらに力が入らず、包丁を取り落としそうになるのを懸…

80 対峙

幾度も襲い掛かる警備員を斬り捨てながら、ルソーは上へ上へと昇っていた この先に、憎き復讐相手が待っているというだけで、心の暴走を抑えきれそうになかった 「……「キョウキ」」 不意に、頭によぎる言葉 それはルソーの「心器」の暗示 彼はそれを振りはら…

79 そのはるか上へ

響く発砲音、飛び散る赤い液体 ルソー達四人は襲い来る警備員をなぎ倒しながら上へと目指していた 「流石に上まで来ると警備も厳重だな」 「……皆、先に行ってて」 そういうと、ヤヨイは足を止めて振り返った 「『仕立て屋』さん!」 「私がこいつらの足止め…

78 突入

「これが、カルミアグループの本拠地ですか」 「デカいな」 「やっぱり国を動かす財閥ってだけあるかも」 視界に収まらないほどの高い建物を、四人は見上げた カルミアグループ。ルソーが今、一番倒さなければならない相手である 「全員、地図は頭に入ってま…

77 赴く刃たち

「珍しいわね、皆でお出かけなんて」 マープルを抱え上げたフブキが言った。その横にはハシモトがついている 「今日中には戻ってきます。夕飯、おねがいしますね」 いつもの平淡な声でルソーは言った フブキとルソーが身の上を打ち明けて、二ヶ月が経ってい…

76 小さな兵器の決心

草香は考えていた 立て続けに起こるルソーの身の回りでの殺人事件 そして、潰したはずの「カルミア研究所」の再興 彼女なりに考えていた。カルミア研究所が、おそらくルソー達を狙っている 偶然そろってしまった仲間の存在を、カルミアも恐らく感づいている …

75 火が灯る日

「ヒナコちゃん?」 上の空になっていたヒナコはそこで意識を取り戻した 「仕事中に上の空なんて珍しいわね。最近どうしたの?」 「あ、あはは、何でもないですよ」 先輩社員は首を傾げ去っていった。ヒナコは大きくため息を吐く あの日、『赤髪の殺人鬼』に…

74 狡猾な野郎

「ハシモトのこと、ですか」 夕飯時、ハンバーグを一切れ飲み込んだルソーはフブキに言う フブキは少し憂いたように頷いた 「ほら、貴方やアイラをよく飲みにさそうけどさ、私も、幼馴染として何かやれないかなって」 「と、いいますと」 「心配なのよ、ハシ…

73 騙し討ち

「珍しいな、お前からこっちに来るなんてよ」 そういいながらハシモトはミツミを裏事務所へ迎え入れた 相も変わらず、第一印象の割に物がない事務所である ミツミは最初にハシモトに出会った時から、借金を擦り付けた者の正体をつかむように依頼していた も…

72 裏世界への嫌悪

ガチャン 日常使いしていたコップを手から滑り落とし、ようやくミツミの目は覚めた 彼は疲弊していた、日常における激務に 日中普通に仕事をしている分には問題なかった。ただ、彼には「深夜の業務」があった そう、彼は殺人鬼さえ受け入れ手がける「闇医者…

71 訪れたもの

ルソー・ハレルヤの人生は荒波もなく順風満帆なものだった 危険な心器を所持していたが、普通の健全な男子として生まれ、時に反抗もしながらではあったが順調に育っていった 成績はかなり優秀なもので進路に困ることはなく(ある日唐突に「弁護士になる」と…

70 語られるべき過去

奇異な目を向けられながらもハレルヤ家に到着したアイラは、居間のソファにハシモトを乱暴に放ると、いきなりそのすぐ近くに座っていたルソーの胸ぐらをつかんで引き上げた 突然の出来事にフブキと草香、そして夕食をごちそうになっていたヤヨイが驚いて動き…

69 トレインサスペンス

銃声が響く。一人また弾かれる しかし、そんなことをしていてはキリがないほどにまた乗客が迫ってくる 「チィ! 『折り鶴』! まだなんともならねェのか!」 「今思い出してるんだから邪魔すんじゃねぇ!」 電車は速度を変えず前進する 揺れる暗い車内で、照…

68 幼い頃の記憶

「馬っ鹿野郎! 運転手殺す馬鹿がいるか!」 切羽詰まった声色でハシモトは叫んだ 目の前で死んでいる制服姿の男は、やはりアイラに首を折られて殺されていた アイラは何も言わずにハシモトを見る 『ははははは! こりゃあ傑作だ! 俺の「駒」に殺されまいと…

67 明りのない夜行列車

「なっ、何だよ!」 突然の消灯に焦って立ち上がるアイラ それに遅れてゆっくり立ち上がるハシモトは、それにあわせて周囲を見回した パンタグラフの動作などによる突然の消灯自体はよくあることだが、それでも数本は付いているケースが多い だが、現在は夜…

66 「生きろ」

「だあ、もう! わざわざ呼び出しておいて荷物持ちかよ、人使い荒いやつめ!」 少量ながらも重い荷物を抱えながらアイラはハシモトに突っかかっていた ハシモトは涼しい顔で先を歩く 「だったら話を聞いた時点で帰ればよかっただろ。最近「オヒトヨシ」にな…

65 不揃いの情報

「成る程。つまるところ、草香さんは今まで名瀬田によって保護されていたことで、現在まで故障せずにいられたのですね」 ティーカップを置いてルソーは言った 休日のルソーの自宅。フブキはハシモトからの電話に出ていて居間にはいない 俯く草香はそれでもわ…

64 残る禍根

「やはり罪悪感を感じてしまいますね」 窓からの景色を見下ろしながらルソーは呟いた 視線の先には一人で帰路につくコマチ。気丈にふるまっているが一挙動毎に不安が現れている 「人を殺すときは何も思わねェくせにな。おっそろしい奴」 それを傍らで眺めな…

63 手荒な作戦

「……本当に一日密着するなんて思いませんでしたよ……」 いつもよりやや疲弊した声でルソーは言った 丁度昼ご飯時、ルソーはコマチと連れ立って町中のカフェで昼食をとっていた 彼は約束通り出社と共にコマチを拾い、一日密着という形で取材を許可していた 「…

62 作戦会議

「あーあ。ついに来ちまったか」 いつものように裏事務所で椅子にもたれかかるハシモト 上着は先ほどルソーに回収されて壁にかけられている ルソーは存外焦らずにいつものペースを貫くハシモトを、いつものように見ていた 「いつかくるとは思ってたけどよ、…

61 這い回る噂

ルソーとアイラが退院して数日 ルソーはまだ体に違和感を覚えながらも、表稼業である弁護士活動を再開していた まだ休んでいないと体に毒だといわれたが、仕事の手を止めることは自分自身が許さなかった そんな折、昼休みに昼食をとろうと街中を歩いていたと…

60 響いたナースコール

「アイラさん、大丈夫ですか」 「これが大丈夫に見えるかよ……」 包帯をいたるところにまかれ、ベッドに横になるアイラは呆れたように言う あれからアイラは病院に戻り、たまたま巡回していた看護師に拾われ、すぐに処置を施された かなりの出血量と怪我であ…

59 『殺戮紳士』後

振り下ろしたアイラの左腕は空をかき、地面に指を突き立てた 「うわっ、アスファルトに穴開いてるよ。どうなってんの」 余裕をもってかわした名瀬田がやはり余裕をもって呟く アイラは体制を立て直すと、再び名瀬田に掴みかかった 拮抗を続けて数十分。しか…

58 うつらうつら

そこは平和で、明るくて、何もかもが輝いていた ぼやけた情景しか見えないが、それでも楽しい所だということは理解できていた なんということはない、ただの近所の散歩道 そこで角を曲がり、とある家の門をくぐり、ドアを開けた 途端に、視界が塞がれたかの…

57 「迎えに行くね」

白で統一された個室に、ルソーは横たわっていた 経過は順調で特別な機器をつける必要もなく、ただ左腕に栄養剤を点滴されつづけているだけである そのなげだされた左手を握り、フブキはただじっとルソーを見守っていた 「失礼します」 一言声をかけて、ヤヨ…

56 目覚めは、まだ

「ルソー!」 そう叫んで、フブキはミツミの病院へ駆け込んだ ルソーは今しがた『水仙』によって病院に担ぎ込まれ、地下の手術室で治療を受けていた 担当の者に作業を任せ、ミツミはたった今上階に上がってきたばかりなのだ 「ミツミ先生、ルソーは、ルソー…