バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

24 五感と嗅覚

「ごちそうさまでした!」
綺麗にカレーをたいらげ、ヤヨイは両手を合わせた
「ふふ、ヤヨイちゃんは本当に幸せそうに食べるわよね」
「普段ろくなもの食べてないですからね。ありがたいです」
その言葉で滅茶苦茶に繋げられた件の死体を思い出してしまい、ルソーは若干眉間にしわを寄せる

「そうそう、ルソー。さっきまで話してたんだけどね」
「何ですか?」
ルソーは顔を上げる。フブキはニコニコしながら食器を重ねていく
「アイラさん、なんだか鼻がいいみたいなのよ」
「…鼻、ですか?」

「今日のカレーも匂いでわかったし、柔軟剤がいつもと違うのもばれちゃってね」
「そ、その話はもう終わったことだろ……」
アイラがわずかに顔を赤くする
「確かにアイラさんの嗅覚の精度はかなり高いと思われます」
「おい、草香!」

「鼻がいいって、なんだか漠然としてるというか、あんまり特技として取り上げられないよね」
ヤヨイが呟いた
「確かに、目がいいとか、耳がいいとは聞きますが、鼻がいいとはあまりききませんよね」
「五感として同じように取り上げられているのに、不思議なものですね」

「もういいだろ、その話は……」
いつの間にか机に顔を伏せていたアイラが言った
「もう、そんなに恥ずかしいことじゃないでしょ?」
「恥ずかしいっつーか、なんつーか……」

「……鼻がよくても、いいことねぇよ……」
小声でそう呟いたのを、ルソーは微動だにせずきいた



「はぁっ、はぁっ……」
息がつまる。動悸がとまらない
どうして、僕ばかりがこんな目に合わなければならないのだ
僕を見る目が、声が、指が、憎い
あいつらなんて、本質を見れば俺の下にいるくせに

右手で左胸を抑える
右手が左胸に沈んでいく
やがてそれはずるりと音を立てて、一つの「心器」になった
そうだ、僕にはこれがある
これで僕は、俺は、「支配者」になるのだ

「……ははっ、あはは、ははははは!」
狂ったような笑いが、三日月の空に消えた