バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

2 勘違い

変だ
マヨイは次第にそう思うようになっていた
街を歩くと皆、ニコニコと笑ってマヨイと接する
それだけならまだ「ほほえましい街だな」で済む
だが、時折人が深く頭を下げたり、「あの時はありがとうね」と声をかけてくるのだ

「おかしいよ、こんなの。私何もやってないのに……」
最初は気にしていなかったマヨイだったが、だんだんと不安感を覚えていた
「ああ、ヤヨイちゃん、この前はありがとう!」
そう声をかけてくる者もいるが、自分の名前はヤヨイではない
別人だと言っても、相手は聞いてくれないのである

「一体何なんだろ……」
昼食を終えてレストランを出たマヨイは首をかしげながら道を歩く
その時、誰かとすれ違った気がして、マヨイはおもわず振り向いた
しかし、その人影は人ごみに紛れてすぐに見失ってしまった
「この時期に長袖なんて、暑くないのかな」
マヨイは呟いた



「おい、お前最近『仕立て屋』見たか?」
いつものハシモトの事務所。脱ぎ捨てられた上着はいつものようにルソーがハンガーにかけておいた
「……『仕立て屋』本人は最近見かけていませんが」
「ということは、ほかの何かを見たな、お前」
ハシモトの問いかけにルソーは頷いた

「つい先日、ミカガミ駅で、彼女とそっくりな旅行者に出会いましてね」
「ってことは、最近の報告はそいつか」
ハシモトは煙草を灰皿に押し付けて呟いた

「ルソー、そいつの所在、わかるか」
「残念ながら。ただの旅行者ですし、すぐに帰ると思いますが」
「それが、その「すぐ」のうちに何か起こるかもしれねェんだよ」
ハシモトは机に肘をついて続けた

カルミア騒動の前に、『仕立て屋』が狙われたのを覚えてるか」