バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

25 「カルミア」と彼女

ガチン
鋭い音を立てて『匠』ののこぎりとフブキの包丁がぶつかり合った
「へぇ、あんたがあの『弁護士』がかくまってた姉貴とかいうやつか。結構元気じゃねぇか」
「貴方、何者なの。私のことを知ってるって、どういうこと」
「ふん、いいぜ。冥土の土産に教えてやらぁ」
『匠』はフブキを突き飛ばし、のこぎりを持ち直した

「俺は『匠』。「カルミア」お抱えの殺人鬼だ」
カルミア」。その言葉にフブキは反応した
「貴方、あの組織の人間なの?」
「だからそういってるじゃねぇか。もっとも、今のターゲットはお前じゃないぜ」
『匠』はマヨイに視線を投げる
「お前だよ、『仕立て屋』」

「そこから離れなさい!」
草香が鋭い声を上げる
同時に数発銃弾が放たれたが、素早く下がった『匠』に当たることはなかった

「ふう、どうしたもんかな」
『匠』は一同を見やってにやりと笑う
「凶暴な女の多いこと、『弁護士』もごくろうさまだぜ」
そうして『匠』は、一番近くにいた草香に襲い掛かった
「一人ずつやっていこうかねぇ!」

しかし、振り上げられたのこぎりが振り下ろされることはなかった
その直前、唐突に『匠』の後ろから銃声が聞こえ、『匠』が膝をついたからである
「な……!?」
『匠』は後ろを振り返る
そこには指先を向けた、見覚えのある男が立っていた

「『殺戮紳士』、てめぇ!」
「おや、何か不満でも」

「名瀬田!? どうしてここにいるんです!」
草香が声を上げる。名瀬田はやれやれと首を振った
「君を守るために決まってるじゃないか。僕は君を取り戻すまであきらめる気はないよ。「カルミア」を裏切っても、ね」
名瀬田はそういい仕込み刀を抜くと、『匠』の首にあてがった
「残念だったね。君とはここでお別れだ」

「……ふん、そうかい」
『匠』はにやにや笑いを崩さず、不意に名瀬田の手首をつかんだ
そうして一瞬ひるんだ名瀬田の足元をすくい、草香の方へと放り投げたのである
家具を巻き込んで倒れこむ名瀬田と草香。『匠』はそれを見て立ち上がった

「どの道手負いじゃ殺せるものも殺せやしねぇからな。今日のところは勘弁してやる」
『匠』はそう吐き捨て、その場から立ち去って行った
「大丈夫、草香ちゃん!」
フブキは草香を起こす。名瀬田もよろよろと立ち上がった

「……」
一連の流れを見ていたマヨイからは血の気が引いたような顔色をしていた
無論、目の前で殺し合いがあったのも事実である
だが、それ以上に
「フブキさん、「カルミア」にかかわっていたって、本当なんですか」
マヨイはそれを信じたくなかった

彼女は、「カルミア」によってすべてを変えられた、一人の被害者だったのである