バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

2 真夜中の訪問者

そいつは窓も難なくすり抜けて、眠る里美に近づく
人間? いや、足もなく生気も感じられない
幽霊? いや、それにしてははっきり見えすぎている

そいつは里美に寄りそうと、ローブをたくし上げた
身体があろう場所にはぽっかりと黒い大穴が開いていた
「可愛いお嬢さん。永遠の悪夢の中でおやすみ……」
そいつが里美に襲い掛かろうとしたその時だ

「おい、何してんだよ、変態」
後ろから声。振り返る間もなく胸を貫かれる
淡く光を放つ剣。まさか

そのまま水平に振り回され、反対の壁に飛ばされる
ぶつかる直前で体制を立て直すも、その直後にはローブに埋もれていた仮面を割っていた
「……こんなもんじゃ死なないんだろ、「鬼」ってさ」
「おや、よく分かってるじゃないか」
そいつの仮面が口の端を上げる
その声は楽観的で不敵なものだった

「ひとえに「鬼」って言っても、ツノの生えた赤い怪物だけじゃないんだな。この、化け物」
「そりゃあどうも。そんなのが来たって怖くないだろう、君は」

彼は剣を引き抜いて肩に担ぐ
「生かしてやるから帰れ、変態」
「……いいのかな?それほどの力があるのなら殺した方が後悔しないと思うのだけど」
「里美の部屋で殺しってのも縁起が悪いからな。無音でやりあうのもやりづれぇし」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
黒いローブは壁をすり抜けるように出て行った

「ったく、誰がこんな早く迎えに来いっつったか」
里美は変わらず寝息を立てている
彼は大きな欠伸を一つすると、開けていた窓から出て行った