バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

2 引き合わされた出会い

「よしくん」
一つの家の前で女子高生が声を上げる。二階の網戸が開き、青年がこちらを一瞬だけ見て引っ込む。しばらくすると鍵が開く音がしたので、彼女はゆっくりとドアを開けた。
「久しぶり。最近ちゃんと食べてる?」
虎屋イズミはコンビニの袋を安藤義幸に押し付ける。受け取って中身を見ると、おにぎりやパスタが入っていた。
「……それなりに」
「本当に~? また激辛ばっか食べてるんじゃないでしょうね。流石に身体に悪いわよ」
「……」
虎屋と安藤は幼馴染だ。共働きだった二人の良心が話し合い、小さい頃はよく二人で留守番をしていた。その関係で仲良くなった。

 

「なんかいいフレーズ、浮かんだ?」
「……いいや。完全にスランプだ」
「まぁ、ずっと音楽ばかり作ってたらスランプにもなるわね。ゆっくり作ればいいよ」
「……」
虎屋は覇気のない白い顔をした安藤のことが心配だった。安藤側がどう思っているかは分からなかったが、毎日、それこそ自分がしつこいと思うくらい足繁く通っている。それでも家に招き入れてくれるのだから安藤の真意がわからない。

 

「……ねぇ、今日も聞く?」
「君のおすすめ、か。センスは悪くないからな、少しかじろう」
「言葉選びが相変わらずへたくそね」
「やかましい。早く出せ」

 

虎屋は動画配信サイトのアプリを立ち上げ、イヤホンを渡す。
「最近デビューした歌い手の女の子。私たちより一個下くらいらしいけど、すごく上手いよ」
「上手いかどうか判断するのは僕だ。このくらいの年代の歌はまだ未熟で聞けた音程じゃな――」
ぶつくさと文句を言っていた安藤は、動画で「彼女」が歌いだした瞬間、言葉を失った。


「……どうしたのよ」
「……この子、なんて配信者だ」
「え? えっと――」