バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

46 仮初の平和

世界はまだ平和になっていない。

 

忌み子への差別はこれからゆっくり撤廃しなければならないのだ。
焦ってはいけない。自分たちの心には確固たる自信がある。

「忌み子だって、人間だ」

 


「浩太さん、洗濯物干しておきました」
華村が顔を出すと、浩太は笑顔で彼を手招きした。
一連の騒動が一時の終焉を迎え、五月は浩太の監視下に置かれた。といっても、特別悪さをするでもなく彼は彼でおとなしくしている。
忌み子への差別が緩和されたことにより自由に好きなところへ行けと申し子たちは伝達したが、忌み子の殆どは屋敷から出ることをしなかった。華村もその一人である。

 

「外の世界は怖いかい」
出された麦茶を飲む華村の横で浩太は問う。華村は麦茶を飲み下して考えた。
「確かに怖いです。まだ完全に差別が撤廃されたわけではないので。でも、それ以上に僕は皆さんに恩義を感じています。返したいほどの大きなものを、皆さんからいただいたので」
「そう」
浩太はそれ以上何も言わなかった。


『仮初の平和、と言ったところだねぇ』
外を眺めながら五月は言う。彼自身は申し子たちに逆らうつもりはなかった。
『生ぬるいこと言ったもんだねぇ。四凶獣は、まだ虎視眈々と君たちの喉笛を狙っているというのに』
逆らうつもりはなかった。そう、「彼自身は」。

 

 

世界はまだ平和になっていない。