バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

怪人と過ごした日 後編

 翌日から、俺の活動はより精力的になった
 以前から好きだったボランティアに積極的に参加するようになり、公演日の迫る演劇の練習にも熱が入りだしていた。何気なく渡す絆創膏の一つにも、早く怪我が治りますようにと願って渡した。そこまではよかった。本当に充実した毎日だったと思う。だが、一週間ほど経った時から、体に違和感を覚えるようになった
 朝起きても体がだるい。昨日の疲れが取れていない。精力的な活動のせいだろうと思い普通に過ごすが、やがて部員の皆が口をそろえて顔色が悪い、今日は休めというようになった。そしてそれは、あいつにも伝わった
「おい、大黒屋、大丈夫か?今日の夕方の練習、やめとく?」
「何言ってんだよ。俺は大丈夫だぜ?」
「顔色悪いぜ? 夕刻の日の中でもよくわかる」
「平気、平気。さ、始めようぜ」
体がだるいのも、顔色が悪いのも、全部疲れからくるものだ。そのうち治る。そう思っていた。演劇の公演の前日までは。

 何時にも増して調子がおかしかった。体が重い。視界が揺らぐ。まっすぐ歩くことさえままならない状態だったと思う。そんな中、日が落ちかけた町中を、帰宅するために歩いていた。
 一歩、一歩。辿るようにしないと進めなかった。そしてとうとう、ふっと気を抜いた瞬間に、俺は地面に倒れていた。
 起き上がろうにも体が動かない。重力に押さえつけられているように重い。遠くから足音が聞こえ、何とかそちらの方を見ると、見たことのある赤いマントが姿を現した。
「大黒屋!」
「赤……マン……ト?」
赤マントは俺の体を抱き上げた。目には涙がたまっているようだった。視界が霞んでよく見えないが
「ごめん……、俺、知らなかったんだ……。俺の力は、使う人の体力を削るものだったって……。お前、いっぱい怪我治してきたんだろう! きついなら休めばよかったのに、なんで!」
なんで? ……愚問だ
「それだけ俺は、そこに生きがいを感じていたんだよ」
もっと語ってやりたかったが、口を開くのも辛かった。
 ふと、赤マントの背後の景色を見た。日はとっくに落ちて、星が輝きだしていた。ああ、なんだ
「お前、夕方じゃなくても出てこれたじゃねぇか……」
俺は笑いながら、そっと手を伸ばした。でも、それは空をかいて落ちた

 ああ、俺はここで死ぬんだろうな
 今までの人生に悔いなんてない
 寧ろ、死のうとしていた人生に丁度いい終わり方だ
 ……ただ、願えるのなら




 最期は、舞台の上で、死にたかった




 この後、偶々通りかかった少女に救われることになるのだが、それはまた、別の話