バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

怪人と過ごした日 中編

「あー、いいね、そこ! すっごいゾクゾクくるわー」
 怪人赤マントが俺の「友達」になって数日。こいつは人が殆どいない夕刻の舞台に必ず現れた。なんでも、都市伝説に準拠して夕刻にしか姿を見せることができないという。それなら都市伝説らしく人を襲いに行かないのかというと、少し悲しそうな顔をしたのを覚えてる
 そんな訳で、俺の練習に付き合ってもらっているわけだが、こいつは褒めてばかりで一向に批判しようとしない。自分を広めるツールを失うのが怖いだけなのか、あるいは本当に批判できないのか。……最も、人智を超越しているであろう都市伝説の考えることなんてわかるはずもないのだが
「ゾクゾクするとか言うな、気持ち悪い。それに、あれだけ言ったのに褒めてばっかりだな、お前」
「褒めて伸びるタイプじゃねぇの?」
「確かに嬉しいけどさ、改善点が見えねぇからいつまでも変われねぇんだよ」
「……ドM?」
「その、とってつけたような知識の使い方やめろ」
そうして他の部員が来るまで会話をして、ふらりと去っていく。正直、最初の約束のことなんか忘れていた

 ガシャン
「きゃっ!」
大道具の手伝いをしていると、すぐ近くで音がした。振り返ると、先輩が道具箱を落としたようで、散らばった道具とそこにへたり込む先輩が見えた。膝に何かあたったのだろう。かなり大きく擦れて、流血していた
「おい、大丈夫か」
「う、うん。いてて……」
「先輩、傷、見せてください」
手近にあった救急箱をとり、俺は先輩に駆け寄る。傷の処置自体は久しぶりだったが、できるだけ手早く処置を施す
「ありがとう。手慣れてるのね」
「……それほどでもありませんけど」
簡単に処置を済ませると、先輩を他の部員に任せて道具を片付けた。
 変化に気付いたのは、それから三日後のことだった。

 講義が早くに終わり、食堂に向かう道中にあの先輩を見かけた。その膝は処置の跡どころか絆創膏ひとつついてない、きれいなものだった。おかしい。大きく擦れていたあの怪我が三日で治るはずがない。どうしてだ。どうしてこんなありえないことが起こってるんだ……

「それは俺の力によるものなんだよ」
 その日の夕刻。舞台で待ってた赤マントがにやにやしてたので話しかけてみた
「先輩の怪我が早く治ったのは、お前の力?」
「そう!俺は殺すの専門だけど、回復させるのも早いんだ。最初に言ったろ、俺の力をお前に貸すって」
にわかに信じがたいことではあるが、目の前に「怪人赤マント」がいることでそういう疑問も吹き飛びそうである
「お前、俺と友達になってくれるくらい優しいからさ、慈善活動とかボランティアとか好きだろうなと思って。役に立つだろ?」
「……ちゃんと、考えてくれたんだな」
「当たり前だろ?友達だぜ?」
「……ありがとう」
 赤マントの気遣いには本当に感謝した。そして、この日もいつも通りに舞台の練習を開始した