バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

43 抹殺依頼、欠ける仲間

『いやァ、悪いな。態々電話かけてくれてよ』
携帯端末から流れるハシモトの声をうけ、ルソーは「いいえ」、と小さく返した
ルソーは今、自室にこもってハシモトからの電話に出たところだ
「出張に出ていて会うことができない」と理由を並べたハシモトだが、これが嘘か本当かはルソーでさえ計り知れない

「貴方はああ見えて真面目ですからね。また裏の仕事でしょう」
『失礼な事をいうなァ。俺はいつだって真面目、だろ?』
けらけらと笑うハシモトの声をきき、いつも通りだなとルソーは力を抜く
「それもそうですね。何もしてなさそうに見えてすべて完璧にこなす。貴方のいいところですよ」

「それで、今日はどうしたんですか」
話を促すルソー。ハシモトは『おお、そうだそうだ』と話を改めた
『いつも通り、殺しの依頼だ。しかも、今回はお前への名指しでな』
「名指し、ですか」
嫌な予感がルソーの頭を過る

『……先にことわっておく』
急に真剣な声でハシモトは言った
『この依頼は内容が内容だ。名指しとはいえ断ることもできる。俺はあえてこの仕事を受けたが、『弁護士』、お前の一存で断って構わない』
「それだけ危険な依頼なんですか」
『いいや。ただ、お前の「ナカ」の問題になる』
「……」

「依頼を聞いてから考えます。教えてください」
あくまで平静を装い、ルソーは返した
もうすでにこの段階で、ルソーの予感はほぼ確信へと変わっていた
そして、ハシモトから、その言葉が吐き出される

『今回の依頼は、「『仕立て屋』の抹殺」だ』



ハシモトからの電話を切り、ルソーは空をあおいだ
嫌な予感が確信へと変わったときの、あの得も言われぬ絶望感
そんなもの、二度と味わいたくなった
「エミ・フルイセ」を草香たちに突き出す前に来てしまったこの依頼
依頼主は、自分たちの関係を知っていたのだろうか

そんなことよりも、とルソーは思いなおす
ハシモトとの会話でいくらかヒントは得られた。あとはこちらの技量にかかっている
ルソーは携帯端末の番号を押し、再び耳にあてた
「……ヤヨイさん、夜分に申し訳ございません。明日、お時間ありますでしょうか」