バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

42 変わりゆく街並み

『いよいよ一週間後に控えたミカガミタワーのオープンは、日付変更と同時にライトアップが計画されており……』
今時珍しいローカル情報番組の明るいニュースを聞き流しながらルソーはいつものように紙をめくっていた
夕飯が終わって片付けも済み、全員で一息ついたところである

「なんか、この辺もビルが立ち並ぶようになったな」
ぼそりとアイラは呟いた。フブキがアイラを見る
「あれ、アイラさんはずっとこの辺に住んでるの?」
「ああ、まぁ」
移動できない事情があっただなど、言えるはずもないのだが

「へぇ、この辺、詳しいの?」
「まぁ……。っていうか、フブキさんこそこの街出身じゃないんすか」
考えてみれば、こんな髪の色をした人間が近場にいるのなら、噂くらい広まっててもおかしくない
互いに存在を認識していてもおかしくないはずなのである
だが

「うん。引っ越してきたのは、つい最近の話」
ルソーを見ながらフブキは答えた
「前の街でトラブルにあってね。ちょっと居づらくなって、引っ越してきたの」
「そのトラブルって」
アイラが言葉を続けようとしたその時

刺さるような視線を感じ、アイラはおもわずその方を見た
今まで資料を読んでいたルソーがその手を止め、視線だけこちらに向けている
それ以上詮索するな。まるで、そう言いたげなように
「……」
舌打ちを一つし、アイラは言葉を切った



呼び鈴が鳴る。大分遅い時間であったため、ルソーが率先して玄関に出た
ドアを開けると、ヤヨイが笑顔で箱を抱えて待っていた
「久しぶり。皆元気にしてる?」

「実家から林檎が届いたから、ルソー君たちにもおすそ分けしようと思って。林檎、好き?」
「はい。ありがとうございます」
「いいのよ。私も何だかんだ、皆にはお世話になってるわけだし」

「……あのさ、噂で聞いたんだけど、襲われたんだって?」
声を低くしてヤヨイが問う
言わずもがな、先日の『殺戮紳士』の時だ
「ルソー君のことだから大丈夫だとは思うけど、気を付けてよ。この辺、やっぱり最近物騒だから」
「ご心配ありがとうございます。……僕自身も、あの男は危険だと思いますから」
僅かに眉間にしわを寄せながらルソーは返した

「それじゃ、お休み。明日からまたお仕事だよね」
「はい。おやすみなさい。道中、お気をつけて」
「やだなぁ、ルソー君。お隣じゃない」
ヤヨイは手を振ってハレルヤ家を後にした
ルソーは暫くその背中を見つめていたが、やがて一息つき、林檎の箱を家の中へと持ち帰った