バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

45 殺人鬼ごっこ

人通りの少ない路地裏を、ヤヨイは走り続けていた
その後ろを、ルソーが追う
スピードはルソーの方が圧倒的に速かったが、体力面においてはヤヨイの方が有利だった
既に息が乱れ始めているルソーを感じながら、ヤヨイはさらに足を運んだ

時折ヤヨイは振り返っては、さっと腕を振るう
一陣の風をルソーは感じるより早く包丁で受け止め、その風を導く糸を切り落とす
「やっぱり駄目か……」
少し悔しそうにヤヨイは呟き、また振り返って走り出す
二人の逃走劇は、街の中央へと向かっていく

カツン
行き場を塞ぐようにヤヨイの真横に包丁が放たれた
前方も行き止まりになっていたのに気づいていたヤヨイは、誘導されるように包丁とは逆方向に切り替える
やがてそれは建物の外壁に設置された階段に向いた

カンカンと音を立てて階段を上るヤヨイ
ルソーは音を立てることなく、しかし確実にヤヨイの後を追う
時刻は夜と深夜の間。しかし、街はまだ起きている

開けた場所に飛び出したヤヨイは、その先に道が続いていないことを見た
軽く息を弾ませるヤヨイ。体力にはまだ余裕があったが、もう逃げ場はなかった
音をたてて扉を閉めるルソー。肩で息をする程、体力的に余裕はなかったらしい
左腕の時計を見る。日付が変わるまで、あと30秒
ルソーは右手を伸ばし、包丁の切っ先をヤヨイに向けた

ゆっくりと円を描くように、二人は距離を測りながら動く
20秒
ヤヨイは鋏を取り出し、同じように切っ先をルソーに向ける
15秒
二人は同時に蹴りだし、間をつめた
10秒
互いに凶器をぶつけ合い、鋭い金属音を響かせる
5秒
街中にカウントダウンの声が響く

3、2、1……

カッと、あたりが白昼のように照らし出された
誰もがその光景に一瞬目を背け、それでも拍手喝采を送る
その根元の、とある建物の上
『弁護士』に背後から胸を貫かれた『仕立て屋』が、膝をついて倒れるのが、分かった