バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

51 「エミ・フルイセ」という人

「ええ、その件に関しては本当にご迷惑をおかけしてます」
「本当にそれな。お前のせいで髪染めててもろくに外に出歩けねェっての。苦労してんだぞ、こっちは」
「まぁ、そういわれると、計り知れないものなのかもしれませんね」
「……で、用件は何なんだ?」
「……もうお分かりの筈でしょう、僕がどうしてここに来たか」
「さァて、ね」
「あくまでしらを切りますか」
「……」
「では、率直に申し上げます。皆さんの前に現れてください、「エミ・フルイセ」」

「貴方も、そろそろ正体を明かさなくてはいけない時期に来ていることを理解しているはずです」
「……その根拠は?」
「数週間前から、事務所にいるのをあえて伏せて出張と言い張り、僕たちの見えないところに隠れていたことです。貴方はその間に、「黒染めを抜き」、本来の髪色である赤に戻していた。違いますか」

「あーあ、面白くねェ。お前は何でもお見通しなんだよなァ。」
「貴方の事です。僕から出向かなくとも、いずれ正体を明かしていたでしょう」
「ま、確かに俺も、そろそろやばいとは思っていたわけよ。特に、ルソー。お前が危険にさらされることがここ数か月で一気に増えたからな」

「……けどよ、あと一押し足りねぇんだ」
「と、いいますと」
「草香はともかく、ぽっと出の『折り鶴』や『仕立て屋』がお前を裏切らねェとは限らねェ。それを証明するための材料が足りないわけだ」
「成る程」
「……ルソー、一つ協力してくれねェか」
「何をですか」

「一つ、テストしてやるんだよ、あいつらを」



「メールの文面をあえて全部ひらがなにしたのは、『弁護士』の提案だ。お前は文字を読むのがやっとらしいからなァ、『折り鶴』?」
ヒヒッと声を漏らし、ハシモト、もといエミは言った
「じゃあ、『弁護士』が一言もしゃべらなかったのは……」
「こいつは隠し事が苦手でなァ。何処で何が出てくるかわからなかったから、俺が許可するまで絶対に喋るなって言ってたわけ」
そう、「自ら喋ることはできない」という証として、ルソーは「静かに」と示したのである

「今にしてみれば、貴方が最後に僕を見送ったのもいいきっかけになりました」
ルソーは相も変わらず無表情で言う
その様子を見て、ようやく全員が安堵した
「心配かけないでよね、もう」
ヤヨイが小さく呟いた

「と、いうわけで、だ」
手を鳴らしてエミは言う
「実質、『最初の殺人兵器』のいう「かつての仲間」は、これで全員揃ったことになる。今後、どこかで何かが動くかもしれない。気を引き締めて生活しろ。いいな」
そして、エミはルソーに視線を投げた
「特に、『弁護士』。お前は自分だけじゃなく、姉貴を護る必要も出てくる。俺も気を付けるが、そのことを忘れるな」
「わかりました」

「それじゃあ、今日の所は解散するかねェ。俺、さっさと帰ってこの髪、黒く染めたいんだけど」
そういいながら、エミは屋上のドアに向かって歩いていく
それを眺めながら、ヤヨイが言った
「そんなにきれいな赤色をしてるのに、勿体ないよ」
「馬鹿野郎。俺はこの髪色、嫌いなんだよ。それに、『赤髪の殺人鬼』と混同されんだろうが。俺はただのブローカーだっての」

ようやく、月は真上を通過した