バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

梨沢の「仲間」という概念に対する考察

梨沢はかわいそうな奴や
彼をよく見る真苅は彼をそう揶揄する
それは、梨沢に「仲間を持とう」という思考が存在しえないからであろう
仲間を持てば強くなる。彼はそう思っていないからだ

近場にあったベンチに腰掛け、梨沢はぼんやりと人を眺めていた
目の前の広場で模擬戦をしているのは、確かそこそこ名の通ったプレイヤーだ
もっとも、梨沢に目の前の人物の名を知ろうという興味はなかったが

「暇を持て余しているようですね、梨沢様」
不意に、彼は後ろから声をかけられる
僅かに顔を上げ後ろを見ると、フォーマルウェアのよく見知った顔がそこにあった
「……んだよ、梅ヶ枝」
「外出なさってるとお聞きしたので探していたまでです」

「話しかけてくるんじゃねぇよ。今、研究につまってるんだ。相当イライラしてるぜ」
「さようでしたか」
テンションの低い梨沢の声など気にもかけず、梅ヶ枝と呼ばれた男は隣に座る
「それで、あの模擬戦を見て、何か進展でも」
「あるわけねぇだろ。からかってんのか」
「失礼」

「「スイ」様と「白」様と申しましたか。彼女たちはかなりの手練れですよ」
梅ヶ枝の言葉に、梨沢は「ふーん」とだけ言葉を返した
本来ならそこで話題を切るのが梅ヶ枝だが、彼は次にとんでもない言葉を続けてきた
「模擬戦、やりにいきませんか?」
「あー、あー……あぁ!?」
適当な返事を返そうとして、ようやく梨沢の意識は覚醒した

「てっめぇ!無茶苦茶言うんじゃねぇよ!危うく賛同しかけたわ!」
「おや、賛同したわけではないと」
「ったりめぇだ!」
畜生、と吐き捨てて梨沢は視線を戻す

「大体、俺とお前をどう説明しろっていうんだ」
「普通に言えばいいじゃないですか。貴方は【フィジカリスト】、私は【フォーマル】と」
「関係はどうするんだよ。チームでもないのに」
「そんなの気にしないと思いますが」
あ、それとも、と梅ヶ枝は口にし、デバイスを取り出した

「今からチームに入りますか?」
「ざっけんな」

「どうしてです? リーダーは一応私なんですから、何の支障もなく入れられますよ」
「部屋を借りて、仕事に協力するだけの関係だって、最初に決めただろうが」
しかし、と続けようとする梅ヶ枝を無視して梨沢は立ち上がった

「形上で取り繕うくらいがちょうどいいんだよ。俺に、仲間なんてもんはいらねぇ」
そう言って踵を返すと、梨沢は歩き出した
梅ヶ枝は梨沢と模擬戦を交互に見、ため息をひとつ吐いて梨沢についていった