バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

61 這い回る噂

ルソーとアイラが退院して数日
ルソーはまだ体に違和感を覚えながらも、表稼業である弁護士活動を再開していた
まだ休んでいないと体に毒だといわれたが、仕事の手を止めることは自分自身が許さなかった

そんな折、昼休みに昼食をとろうと街中を歩いていたとき
「ルソーさーん!」
と、高い声が聞こえたのでそちらを見ると、案の定、コマチがニコニコと笑いながら手を振っていた
これは、また同席だな。そう思いながらルソーは重い体を引きずるようにそちらへと向かった

「ルソーさん、最近噂とか聞いてます?」
近場のラーメン屋に入り、醤油ラーメンをあらかたすすり終えたところで、コマチがそう切り出した
ルソーは首をかしげる
「世の中の情勢にアンテナを張る程度にしかしていませんね。噂に流されるわけにもいきませんから」
「そっかぁ。じゃあ、これもルソーさんは知らないんだろうなぁ」
独り言を呟くコマチに、ルソーは更に突っ込んだ

「僕の周りで、何か噂が立ってるんですか」
「うん。というか、ルソーさんにとってはかなり重大な噂」
「聞かせていただくことって、できませんかね」
ルソーの申し出に一度は腕を組んだコマチだったが、やがて「驚かないでくださいよ」と顔を近づけた
ルソーもそれに耳を貸す
コマチは遠慮しながらも、はっきりといった

「最近噂になってる『赤髪の殺人鬼』。あれが、ルソーさんなんじゃないかって」

ルソーは声をあげそうになった。すんでのところでそれを抑えたが、鼓動の音がうるさく鳴り響く
「あくまで噂ですよ。でも、ルソーさん以外に「赤い髪の人物」って、このあたりじゃ見かけないから……」
「僕が、殺人鬼?」
いつ、どこでボロが出てくるかわからない中、警戒しながらルソーは言葉を紡ぐ

「私だって、そんな噂がたってるのが許せないんです」
そういうコマチの目は本当にルソーを心配しているようで、しかしわずかに疑っていないこともなかった
「ですから、ルソーさん。お願いがあるんです」
「……何でしょうか」

「今度、一日、密着取材をさせていただけませんか」



コマチと別れ、事務所への道についたルソーだったが、頭は激しく回転していた
来てしまった、というのが正直な感想である。ここをどう退けるかによっては、今後の生活にかかわってくる
とりあえず、「困ったときはハシモトへ」である。ルソーは携帯端末を取り出し、通話をつなげた