バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

27 父の存在

「私のお父さん、カルミアの子会社に務めてたんです」
マヨイは口を開いた
平々凡々な家に生まれ、育ってきたマヨイにとって、父親は畏怖と尊敬の対象だった
無口ではあったが、家族思いで、誰よりもマヨイをかわいがってくれた

「でも、ある日を境に突然経営が苦しくなって、会社が倒産したんです」
ある日、言わずもがな「騒動の会見」での暴露の日である
カルミアが犯してきた数々の悪行が暴かれ、民衆から反対運動が起き、カルミアは再起不能になっていた
しかし、当然それは務めていた子会社にも響いたということ
マヨイの父は偶然にも、その一員であったのである

「それで、その、お父さんは……?」
先は聞きたくなかった。しかし、真剣に彼女の話を受け止めなければならない
フブキが促すと、マヨイはうつむいて答えた

「死にました」

「何を考えていたのかはわかりません。でも、ある日家に帰ってきたら、首を吊って死んでました」
全員の言葉が詰まる
マヨイはこぶしを握り締め、言葉を絞り出した
「何で、なんでこんなことになったのか、わかりません。でも、怖くても好きだったお父さんが死んだことが、信じられなくて」

マヨイは立ち上がった
「おい、どこに行くんだ、マヨイ」
アイラの声にマヨイは答えた
「しばらく一人にさせてください。つらくて、仕方がないんです」
そういって、マヨイは玄関に向かっていった
誰も、その姿を止めることができなかった