バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

2 おひかえなすって

えー、こちらにおわします方は我が師であり恩人の伏水究
なんて堅苦しい口上は私には難しい
それでも先生が色んな本を読ませてくれたおかげで語彙力もそこそこについてきた……と思う

「先生、今日の仕事は浮気調査ですが」
「分かってる」
先生はそう言いながら事務室兼応接間の一番大きな椅子の上で伸びをする
「怪しいサイトを巡っているらしいから、履歴からそれっぽいところを引き出して回ってる」
「意外と機械に強いんですね」
「「意外と」は余計だ」

普段は生活力なくてだらしない先生だけど、仕事はちゃんとやってるから安心はしている
私は先生のためにコーヒーを淹れようと立ち上がったその時
少し錆びたチャイムの音が聞こえた
因みに先生の事務所は古いアパートの一室だ

「出ますね」
「どうせあいつだろ」
ややうんざりとした声で先生は言った
私にも予想はついていたので、ドアを開ける

「やぁ、二人とも元気ぃ?」
「雨夜さん」
警察機構に務めている(らしい)彼は雨夜叡さん
ところがこうして頻繁にうちに来るのである
雨夜さんの言うところによれば「探偵稼業の行き過ぎを防ぐ監視」らしいのだけれども、長い付き合いらしい二人はそんなこともお構いなしに雑談をはじめてしまう

「何をしに来た、叡」
「やだなぁ、眉間に皺を寄せないでくださいよぉ」
「暇で来たな」
「まぁねぇ。油位売ってくださいよぉ」
「貴様に売る油などない。帰った帰った」
「先生、油なら台所に」
「違う、その油じゃない」

はた目から見ればお笑いのようだ、と一度言われたことがある
そんなつもりはないんだけどなぁ?