バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

5 守る理由とカレーライス

「……」
大黒は廃工場の鉄材の上に座って昇る月を眺めていた
廃工場に屋根はなく、むき出しの鉄骨の隙間から月は夜闇を照らす

「そこにいたんだ、大ちゃん」
地下への扉を開き、真宮が顔を出す
「皆、飯食うってよ」
「わかった、今降りる」

「……なぁ、真宮」
大黒は真宮に声をかけた
「俺はこの世界は守る価値があるものに匹敵するとは思えないんだ。山さんは、どうして俺たちを呼んだんだろうな」
「……」
真宮は梯子を上って地上に出てきた
「理由なんて、その場で決めちゃっていいんじゃない。例えば、今日はカレーだから世界を守ろう、とか」

目つきの悪い真宮だが、その言葉は丸みを帯びている
「俺たちはどんな事情があっても、生きていかなきゃいけないんだからさ」
「……それもそうか」

「今日の飯は?」
「カレーだって」
「だからそんなたとえを出したのかよ」
そんな会話を交わしながら、二人は地下へと降りて行った