バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

梨沢英介の日常

ああ、またいつの間にか朝になっていた
これだけ没頭してもう何日目だろう
いまだに欲しいものはできない
自分の技量のなさだけが悔やまれる
物理学の天才になるために、何度もぶつかっては押し負けた
でも、今回こそは、これこそは……

「梨沢! おるか?」
唐突に開けられた扉の音のせいで、それまでもっていた集中力が途切れてしまった
「……あ? なんだ、真苅かよ」
「今から買い物いかへん? 一人じゃこわいんよ」
「断る」

俺の名前は梨沢英介。IDは【フィジカリスト
とある探偵事務所に居候する探偵だ
といっても、そこに務める探偵たちとはチームではない
俺はあくまで個人主義だ。それに、チームになりたいと思えるものを探している
普段は自室にこもり、物理学の研究に没頭しているが、たまに真苅のように突撃してくるものもいる
勘弁してほしい

俺は立ち上がり、のっそりと部屋を出る
「ちょお、どこ行くんや?」
「その辺周ってくる。お前のせいで集中力が切れた」
玄関の扉を開ける。冷たい風が刺さる
「買い物なら仲間といけ。俺はチームじゃない」
「そんなこと言わんと……」
「じゃあな、4.8」
そういって、向こうが何か言う前に外に出た



風は冷たくても、日差しは暖かい
近くの公園で買ってきたコーヒーを飲みながら、ぼんやりとしていた
俺はこの世の中が嫌いだった
天才と呼ぶだけ呼んで、功績をだした途端に無視されて
そんな日々が嫌になってこのゲームに手を出したというのに
やってることは何も変わらねぇ

……やめた。こんなこと考えてもらちがあかねぇ
そんなことうだうだ考えるよりも、研究に没頭した方が生産的だ
そう思って缶をごみ箱に捨て、立ち去ろうとしたその時だった

目の前に何か黒い影が見えた
立ち止まって、じっと正面を見据える
出てきたのは虎型のルイウだった
大きさはやや小型。この位なら……勝てる
バイスを取り出し、ルイウに向けた

『ルイウ【4】、討伐を開始します』

こちらに気付いたルイウが、ゆっくりと距離をつめてくる
そして、突然こちらに突進してきた
ガン!
大きな音と共にルイウの動きが阻まれる
俺は正面に盾を構え、動きを阻害していた

しばしのにらみ合いが続く
互いに押し合ってるせいなのだが、小型だからか重くは感じない
俺はぐっと前進し、ルイウを押し返した

ルイウはばっと距離をとり、再びこちらに突っ込んできた
爪や牙をつかって襲い掛かるが、的確に防御できるほどに動きは遅い

長く遊んでるつもりもなかった
牙をはじき飛ばすと、そのまま盾を強く押し出した
体をはじかれ、バランスをくずしたのを見計らい、盾を振り上げた
そして、そのふちをルイウののどに向けて突き下ろした


「おー、おかえり。おそかったやん」
「真苅、まだ出かけてなかったのか」
事務所に戻り、自室にいこうとする俺の腕を、真苅がしっかりと握った
「怖い言ったやろ? それに、出かけ際のこと、ちょっと問い詰めたくて……」

……天才になるには、道が長い