バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

怪人と過ごした日 前編

ツイッターで山さんの「いいねした人をキャラ化する」の設定に便乗しました
前後はありませんし番外の番外位にとっていただければ幸いです



「『ああ、なんて人間は脆いんだろう!』……なんか違うな」
 大学に入って早2年。初めての一人暮らし、自分で組むスケジュール、友達、部活。いろんなことがあったけど、なんとか元気にやっていけてる。そして、入学と同時に入った演劇部で、とうとう主役を演じることができるようになった
 都市伝説が人間世界を闊歩するというなんとも風変わりな内容のそれで、俺は「怪人赤マント」を演じることになった。知っている人は少ないと思うが、類似の都市伝説は多い
 夕暮れ時に人の前に現れ、赤い色が好きか?青い色が好きか?と問いかける。赤と答えれば血まみれにされ、青と答えれば水に沈めて殺される、と、大体こんな具合だ。よくある都市伝説の方が名前が広がってしまい、正直調べるまで聞いたこともなかった
 役をもらえたのは勿論のこと、それも主役だ。いつも以上に気合が入る。部活中は勿論、一人遅くまで練習していた。
 これは、そんな時に突如訪れた数奇な出来事である。

 おかしい。
 音の響く舞台を見回す。時刻は夕刻。日が沈もうとしている時間。オレンジの光が差し込んでくる。誰もいないはずの舞台なのに、何者かの視線を感じて止まないのだ。注目される部活だ。感覚がマヒしてきてるのだろう。そう思って練習を開始した。
 舞台の中央に立ち、右手を伸ばす。
「『ああ、なんて人間は脆いんだろう!』」
視線。
「『こんなにも簡単に消えて行ってしまう』」
視線。
「『面白い、実に面白い』」
視線。そして、
「『クックク……ハハ、アッハハハハ!!』」
「ハハハハハ!」
「……は?」
笑い声が、背後から聞こえた。
 恐る恐る振り返る。そこには普通じゃない服装をした誰かが立っていた。控室に置いてきたはずのフォーマルウェアと赤いシルクハット。そして、仕立てあがってないはずの、赤いマント。その顔は、部員の誰でもなかった
「ねぇ、いつもここで台詞言ってるのって、君かい?」
「え、あ……」
「うーん、あ、あれやってよ。決め台詞。『さあ、お嬢さん』ってやつ」
ニコニコと笑いながら、彼は一歩迫る。やらないとまずい。本能でそう悟った俺は、全演技力を集結させて言った。
「『……さあ、お嬢さん。赤い色と青い色、貴方はどちらが好きですか……?』」
「……すげぇ、俺より迫力ある」
目の前の人物はこそっとそう呟いて、こっちに迫ってきた。下がろうとする俺の手をとると、目を輝かせて言った
「なぁなぁ、俺のこと、どこで知った? 都市伝説、好き? 友達いる?」
「あ、あの……」
返答に困る俺に、その人物はすごい勢いで頭を下げた
「頼む! 俺と友達になってくれ!」

 「怪人赤マント」と名乗った(のかどうかは微妙だが)その人物は、周知の都市伝説となるために色んな活動をこなしてきたが、ほとんど失敗に終わっていた可哀想な人である。人々に知られなければ消えてしまう「都市伝説の死」を恐れ、とうとう誰かの手を借りることを決断したらしい。夕暮れ時にあてもなく協力者を探していたところ、演劇の練習をしていた俺を見つけたのだそうだ
「俺は名前が広まって都市伝説として確立される。お前は友達が増える。はいイーヴン」
「ま、まぁ、いいんですけど、俺の分け前少なすぎません……?」
「はぁい、そこ、敬語はやめてタメで喋れ。ふむ、確かに友達くらいでは命の確立に比べれば大したことないか」
赤マントは顎に手をあて考える。正直、俺が演じていた崇高な都市伝説とはかけ離れているが、口に出してしまうと何をされるか分からないので黙っている。
 やがてポンと手を打った赤マントは俺の方を見て言った。
「そうだな、俺の力をお前に貸してやるよ」
「えー、やだよ殺人能力なんて。罪人になるなら女の子のスカートまくりで十分だって」
「お前ちっちぇーな……。安心しろ、ちゃんと日常に役立つものを選んできてやるから」
「ん……仕方ないな。俺は演劇に命かけるだけだし、そのくらいならいいぜ」
「本当か! よーし、演技指導しちゃうもんね!」
「おい、そこまで求めてないから」

 こうして、俺と赤マントとの奇妙な生活が始まった