バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

28 『ハシモト』の警告

「『狗』に襲われたァ? お前ら、よく生きて帰ってこれたな」
半ば驚いたようにハシモトは声を上げた
『狗』の死から数日。裁判が流れてしまい時間があいたルソーは、アイラを連れてハシモトの裏事務所に足を運んでいた
死んだとはいえ相手も殺人鬼だ。何か情報がつかめるかもしれなかったのだ

「そんなにやばい奴だったのかよ?」
「あァ。『狗』ってあいつだろ、最近頭角を現した犬使い。あいつの狙った奴は一人として生きて帰ってこなかった」
「と、いいますと」
冷静に説明を促すルソー。ハシモトはやれやれと首を振り、机の上に放っていた煙草を一本引き抜いた

「あいつは「犬」使いだからな。一回犬に獲物を覚えこませると、その臭いと、先回りする推理力で相手を「喰らう」まで追い詰める。厄介な奴であることには変わらねェよ、最近二つ名が付いたとはいえ、な」
あそこで運よくヤヨイが来ていなければ
そう考えるだけで、思わずアイラは身震いする

「しかし、本当にお前らは運がいいなァ。よりにもよって『仕立て屋』の意外な才能によって救われたわけだ」
アイラの思考を読んだように、ハシモトはヒヒッと声を漏らす
「……それで、残された犬はどうするつもりか聞いてるのか?」
「ヤヨイさんがなんとかするそうです。仕方がなかったとはいえ、主人を奪った責任はとると、本人は言ってました」

「……『弁護士』、重々言ってるけどお前、気を付けた方がいいぜ」
ふっと煙を吐き、ハシモトはルソーを見た
「ここ最近、立て続けにお前を狙う殺人鬼や裏世界の輩が増えている。言わずもがな、『赤髪の殺人鬼』の名前が広まってるせいだ。あんまり調子に乗ってると、痛い目を見る羽目になる」
「知ってますよ。僕だって、有名になりたくてなったわけじゃない」
眉間にしわを寄せてルソーは言った

「なぁ、お前、本当になんなんだよ。何のために……」
「「殺人鬼をしているか」、ですか。それはこの前にお話ししたはずです。まだ、今は語る時ではないと」
アイラの言葉を切るようにルソーは言うと、ゆっくりと立ち上がった

「『狗』の処分はお任せします。報酬は弾みますので」
「なら、次来た依頼でイーブンにしようじゃねェの」
灰皿に煙草を押し付け、ハシモトはニヤリと笑った
それを無表情で受け取ると、ルソーはアイラをおいて踵を返した

(そうだ。僕は、まだ力をつけなければならない。こんなところで、死ぬわけにはいかないんだ)
そう、胸に秘めながら