バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

60 響いたナースコール

「アイラさん、大丈夫ですか」
「これが大丈夫に見えるかよ……」
包帯をいたるところにまかれ、ベッドに横になるアイラは呆れたように言う
あれからアイラは病院に戻り、たまたま巡回していた看護師に拾われ、すぐに処置を施された
かなりの出血量と怪我であったというのに、意識を保てていたというのが奇跡的であった
ミツミ曰く、「化け物か何かかな、君は」と

「んで、『殺戮紳士』はどうなったんだ」
アイラはそばにいる草香に視線を向ける。首を動かすだけでも痛みが走るようで、アイラは僅かに顔をしかめた
「それが、周辺をいくら捜索しても、機械の残骸すら見当たらなかったらしいのです」
「はぁ? 誰か持っていっちまったっていうのかよ」
「わかりませんが……」
『殺戮紳士』の脅威が去ったのは一時的なものなのかもしれない
草香は自らの右手を見つめながら、もし、また名瀬田が来たらと、思いを巡らせた



その頃、隣の病室にて
未だ眠り続けるルソーの手を放そうとしないフブキを見、ヤヨイは見ていられないと視線をそらした
「……ルソー君、いつまで眠ってるつもりなんだろう」
ぽつりとつぶやくが、それに返してくれる相手はいない

ヤヨイ自身、ルソーに命を救われた身でもある
だからこうして、恩人が痛ましい姿で眠り続けているのには辛いものがあった
いつもなら何かしていたかもしれない
いつものように救急車を呼んで、指示して、蘇生を試みていたかもしれない
しかし、今は全て終わり、見守るしかない状態
もう、本人の「生きる力」にかけるしかないのである

「やだよ、ルソー君。どこにも行かないで……」
涙をこらえながらヤヨイは呟いた
その時だった

「……!」
フブキの体が僅かに動く
それを察知したヤヨイは、二人のもとに駆け寄った
「フブキさん、どうしたの……、あっ!」
フブキの視線の先を見ると、そこにはやはりルソーがいた
僅かに、ほんの僅かに目を開いている

ルソーはことりと首を動かし、フブキを見、枯れた声で言った
「……姉、さん……?」

ヤヨイは泣きそうになった
しかし、それをこらえて彼女はナースコールを押した
フブキはルソーに抱き着き、声をころし、しかし大粒の涙を流した
状況を理解できていないルソーは、ただ無表情のまま、フブキに抱かれていた