69 トレインサスペンス
銃声が響く。一人また弾かれる
しかし、そんなことをしていてはキリがないほどにまた乗客が迫ってくる
「チィ! 『折り鶴』! まだなんともならねェのか!」
「今思い出してるんだから邪魔すんじゃねぇ!」
電車は速度を変えず前進する
揺れる暗い車内で、照準を合わせることすら厳しいのに、ハシモトは手を休めることを許されなかった
弾がなくなっては素早くこめ直しを繰り返していたのだが
「うわっ!」
電車が段差で僅かに跳ねあがったのだろう
それに体を持っていかれ、拳銃を手放してしまった
からからと音を立てて床を滑る拳銃
取りに行く余裕もない。そんなことをしていれば、先にアイラが襲われてしまう
「……ちっ、使いたくなかったが、奥の手だ」
そんな声を聞きながら、アイラはレバーを再び選び出した
その時
ズルリという、あの、「心器」が出てくる嫌な音
次いで鉄の弾が滑り込む音
そして、連続した発砲音
何かあった。そう思いアイラは作業を中断して振り返った
赤黒い色をしたマシンガンを持ったハシモトが、そこにいた
「お前、それ……!」
左胸に紋章を持たないハシモトが突然心器を使いだした
その事実を飲み込めず、呆然とするアイラ
ハシモトは独り言のように語りだした
「以前、『弁護士』が襲われたから『変態』の情報を洗ってたらよ、とんでもねェ情報を掴んじまったんだ」
ゴトン、と重い音をたててマシンガンの先を床に落とすハシモト
「奴は本来ただの鎌使いだった。けど、他人の心器を取り込むこと、つまり、「心臓を食らう」ことによって、心器を追加し、寿命を延ばしていったんだ」
「って、お前まさか!」
「あァ。態々探して、『弁護士』連れて行ったよ。あんなもん二度と食いたくねェな」
ヒヒッとひきつった声をあげ、ハシモトは笑った
「調整と試運転はしていたとはいえ、いきなりの本番でこれは上出来だな。弾だけ用意できなくて調達したのが今日でよかったぜ」
「は? つまりお前、今日のその荷物の中って」
「マシンガン用の弾だよ、馬鹿野郎。何の疑いもなく運びやがって」
「ちっ、やっぱり気に食わねぇな、お前」
「そりゃァ、どォも」
「いいか、あと3分稼いでやる。電車を意地でも止めろ」
「言われなくても」
ハシモトは銃口をあげ、乗客の足元を狙って弾を放つ
アイラは次々とレバーを操り、手ごたえを確かめた
そしてとうとう
「止まれ!!」
ぐっとレバーを手前に倒すアイラ
電車の車輪が甲高い音を立て、全員を前方に引っ張る
そして、その音は次第に小さくなり、電車が、止まった
「伏せろ、『ハシモト』!」
その声を聞き、素早く姿勢を落とすハシモト
その頭上をアイラの鎖が通過し、乗客を薙ぎ払った
ハシモトは伏せたまま一番近いドアを撃ち壊し、アイラと共に脱出した
「やれやれ、一時はどうなるかと思ったぜ」
余裕を取り戻したハシモトは言う
アイラは暫く何かを考え込むように視線を落としていたが、不意にハシモトを担ぎ上げた
「おわっ!? 何してんだ、下ろせ馬鹿!」
「ちょっと付き合え、馬鹿野郎。引っかかることがあるんだよ。上脱いでるんだし、酔っぱらいのフリでもしてろ」
アイラはそう言うと、ハシモトを抱えたまま進みだした