バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

68 幼い頃の記憶

「馬っ鹿野郎! 運転手殺す馬鹿がいるか!」
切羽詰まった声色でハシモトは叫んだ
目の前で死んでいる制服姿の男は、やはりアイラに首を折られて殺されていた
アイラは何も言わずにハシモトを見る

『ははははは! こりゃあ傑作だ! 俺の「駒」に殺されまいと、電車がそのままどこかに突っ込んでおしまいだ!』
電車は速度を上げも落としもせずに突き進む
助かる手立てを計算するハシモトだが、なかなか見つからずに焦りを見せる

『じゃあね、『ハシモト』、『折り鶴』。死体はわが社が綺麗に回収しておくよ』
『猿回し』はそう言ってビジョンを消した
相も変わらず、乗客はゾンビのようにこちらに向かってくる

「……『折り鶴』、すまねェ。手立てが見つからねェ。助からないかも」
「助かる」
ハシモトの言葉を切り、アイラは断言した
「助かるってったって、お前、この状況で!」

「「生きろ」っつったのはお前だろ。そうじゃなくても、俺は生きるって決めたんだ」

「一つだけ、可能性がある」
アイラはハンドルと思しきレバーに手をかけた
「昔、本当に昔のことだが、一度だけここに入って、簡単な操作をしたことがある」
「お前、それだけを頼りに電車をとめるってか!? 無茶だ、そんなの!」
「無茶でもやらなきゃ助からねぇだろ!」
アイラの声に、ハシモトは正直、恐怖を感じるほどの気迫を感じた

「てめぇはここにあのゾンビどもが来ないように牽制してろ」
「……信じていいんだな?」
「勝手に信じてろ。俺は、俺が生き残るためにやるだけだ」
アイラの冷静な対応に、ようやくハシモトも頷いた

ハシモトは上着を脱ぎ棄て、運転席から外に向かって拳銃を構えた
「死ぬんじゃねェぞ。死んだら、ぶっ殺すからな」
「どっちの台詞だ、馬鹿」
ハシモトはいつもの笑いを取り戻し、銃声をあげた