バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

71 訪れたもの

ルソー・ハレルヤの人生は荒波もなく順風満帆なものだった
危険な心器を所持していたが、普通の健全な男子として生まれ、時に反抗もしながらではあったが順調に育っていった
成績はかなり優秀なもので進路に困ることはなく(ある日唐突に「弁護士になる」と言い張った時は流石に苦労したようではあるが)無事に目指していた弁護士になり、新しい道を歩んでいた

事件が起きたのは、そんな日々にも慣れてきた二月の寒い日のことであった
当時、姉であるフブキは両親の元に帰省していた。そこに、宅配便を装って凶器を持った男たちが入り込んできたのだ
「私が守らなきゃいけないのはわかってたんだけど、そんなこともできなくて、私の目の前で両親が殺された。それで、私の方に凶器が向いたときに、ルソーが帰ってきた」
フブキは俯きながら言った
彼女はその直後に気絶したので、後のことは分からなかった
ただ、次に病院のベッドで目を覚ました時、ルソーは縋るように泣いたという

「それから、ルソーの方で何かあったみたいでね。あの子の提案で、ハシモト以外殆ど誰も面識のないこの街に越してきたの」
「俺も流石に驚いたけどなァ、暫くかくまってほしいって言われた時は」
ハシモトは語尾を伸ばすが、その目は真剣なものだった

「犯人は捕まったの?」
「いいえ。それが、警察も手が出せない資産家の繋がりなんですって」
「何だよそれ」
アイラの声に、フブキは更に頭を垂れる

「私たちは、「遊び」ですべて奪われたのよ」



「ルソー、入るぞ」
フブキの話をひとしきり聞いた後、フブキを除く一行はルソーの部屋に押し掛けていた
物が殆どない彼の部屋に、ルソーは一人、端に据え置かれたベッドに腰掛けていた

「悪いな。フブキさんから全部聞いちまった」
「……そう、ですか」
いつもの平淡を崩さずにルソーは言う。そうして、彼はつづけた

「僕たち一家の惨殺は、すぐにあちこちのメディアを湧きあがらせました。僕が務め出した弁護士だからというのもあったかもしれません。とにかく、事件の直後から、僕は電話応対と、家に押し掛けてくる取材班を巻くのに必死になりました」
窓が開いていたのだろう。僅かに入ってくる風が、ルソーの髪をあおぐ

「姉さんを見守るのに集中したい僕は、姉さんの退院後は、あらゆる通信機器を破壊し、外との交信を完全に遮断しました。でも、それでも世間は迫ってきた。だから、ここに移ってきたのです。……もっとも、僕みたいに髪の色が派手だと、皆気付いてしまうのですが」
「……そう、か」

「でも、ルソー君、弁護士なんだから、法的に何とかならなかったの?」
ヤヨイの声に、ルソーは首を振った
「姉さんから聞いたと思います。相手は警察でさえ手が出せない財閥。法も捻じ曲げられ、僕は「奴ら」を追い詰める手段をなくしました。だから、殺人鬼になったのです」

「この件は、僕一人で片付けます。ですから、この話はもうやめにしましょう。僕も辛いですが、何より、目の前で親を殺された姉さんが辛い思いをするのは、見ていられないのです」
殺人鬼が何を言ってるんだという感じですが、と付け加えながら、ルソーは言った

「……悪いな、ルソー。そうもいかなくなっちまった」
そう声をかけたのは、一行の一番後ろにいたハシモトだった
「あれから俺なりに、犯人グループを調べたんだ。そしたらよ、こんな情報が出てきた」
そう前置きをし、ハシモトは言い切った

「犯行グループが所属している財閥の名は「カルミアグループ」」
「……!」
その言葉に真っ先に反応したのは、草香であった
カルミア……、うそ、でしょ? あの人たちはとっくに……」
「ちょっと、草香ちゃん、どうしたの?」
「まァ、草香が驚くのも無理はねェ」
ハシモトはそう言ってつづけた

「そいつらは、500年前に草香と名瀬田を製造した研究グループ「カルミア研究所」の後継だ」