バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

70 語られるべき過去

奇異な目を向けられながらもハレルヤ家に到着したアイラは、居間のソファにハシモトを乱暴に放ると、いきなりそのすぐ近くに座っていたルソーの胸ぐらをつかんで引き上げた
突然の出来事にフブキと草香、そして夕食をごちそうになっていたヤヨイが驚いて動きを止める

「おい、ルソー! 何時まで俺たちに「動機」を話さねぇつもりなんだ!」
フブキが場にいることを察知していたアイラはあえて何の動機かは伏せたが、ルソーは言葉の意図を察し、視線をそらした
「ちょ、ちょっとアイラさん、落ち着いて!」
慌てた様子でヤヨイがなだめる

「いつまでも動機を話さねぇのはいい加減頭にきてんだよ! 何があった! どうしてお前は「ここ」に来た!」
「アイラさん」
後ろからフブキが呼びかける
「……それって、私たちがこの街に来た理由のことかしら」
いつものフブキより張り詰めた声で、彼女は言う
その言葉の真剣さに、アイラはルソーを引き上げていた手を緩めた

アイラの手を解いたルソーは咳を数回吐き出し、そのままアイラの脇を抜けて歩き出した
「あ! おい、ルソー!」
「アイラさん、いいの。ルソーのことはそっとしておいて」
後ろからフブキに止められ、アイラは一歩を踏み出せなかった
そうしてルソーは、居間から消えた

「本当は、もっと早く話しておくべきだって分かってたんだけど、どうしても勇気とタイミングが掴めなかったの」
フブキは必死に言葉を紡ぐ
「私よりもルソーの方が辛い経験をしてると思うから、彼には触れないであげて。私が話す。何もかも、全部。いいでしょ、ハシモト、この人たちに話しても?」
ようやくソファから起き上がったハシモトは、一つ頷いた
「いずれはこうなる筈だったんだ。ちょっとずつフォローはしてやるから、好きなだけ話せ」
ハシモトのその言葉にフブキは意を決したように前を向いた