バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

【LWS創作】進みすぎた刻・4(了)

「進め! この場所を落とすんだ!」
鋭い声が響く。火柱が上がる
僕はその合間を縫って、先へ、先へと進んでいた
先にもう既に先輩たちが行ってる
壊滅状態となった建物の中に、もう生きている命はいくつになっただろう

これしか手がなかった、とは、僕は言いたくなかった
けど、ないがしろにされる僕らの声なんて届かない
そこに「ある」ってことを確認させるためには、「これしか手がなかった」
先輩はそう言った。だからそれを信じるしかなかった

「先輩!」
最上階に辿りつき、扉を開ける
だがそこに、ターゲットとなる市長はおらず、かわりに転がっていたものに僕は困惑した
それは、血に塗れ、既に息をしていない先輩たちの姿だった

後ろから悲鳴
振り返ると、いつの間にかそこには背の高い男がいて、後続についていた先輩たちを殴り倒していた
僕は指を立て、その人物に向かって叫んだ
「『燃えろ』!」

その場に火柱が立つ
当たったかと思ったけど、男はすぐさま横にかわして事なきを得たらしい
僕は他のメンバーに比べれば、力業はあまり得意ではない
だから遠くにいる間になんとかしようと、僕は次々と火柱をたてながら走り回った
でも、男は火柱を的確にかわしながらこちらに近づいてくる

そして、僕は気が付いた
いつの間にか僕は部屋の角に、「自らの火柱で」動けなくなっていた

男がこちらに近づいてくる
怖い。僕も先輩たちのように殺されるのか
僕は怯えながら、近づいてくる男を見ていた
そして、音もなく右手が伸ばされた
その時だった

ピタリ
男の動きが止まった
そこで僕は、不自然な事象を見る

男の背が縮んでいく
伸ばされた右手がしわと骨を残すようにしぼんでいき、落ちていく
まるで、急速に「時が進んだ」ように
男は唸り声をあげてその場に倒れた

僕は視線をあげた
倒れた男の先、部屋の入り口に、よく見知った人物がいた
いや、いつもと風貌がまるで違ったが、着ているものと雰囲気でその人を十分に判断できた
「大黒屋さん!」

彼の姿は酷いものだった
身体がやせ細り、しわが増え、まるで野垂れ死にかかっている老人のようだった
彼はにっと僕に笑いかけると、その場に倒れた

僕は倒れた男を踏み越え、大黒屋さんの近くに寄り添う
足元に落ちた瓶には僅かに赤い液体が残っていた
「大黒屋さん、どうしたんですか! まさか、禁忌薬を使ったんですか!」
彼は何も言わず、ただ細く目をあけたまま眠っていた
呼吸こそしていたが、あまりに弱すぎて、僕はどうしようもなくて、混乱して、ただ、後続の先輩たちが来るのを待った



某月某日
「はやめる」能力を持った反抗勢力の一員、大黒屋は
禁忌薬の使用により自らの時間を大きく早めたために
今は病院のベッドで、死を待つだけの存在となった

彼が何をしようとしていたのか
どうして僕たちのチームに入ったのか
僕はなんて言葉をかければいいのか
その答えは、出ないままだった