バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

選ばれた者

「随分と広い建物に住んでいるんだな」
「事務所を兼任しておりますので」
梨沢がフォーマルウェアの男に連れられてやってきたのは、壁にツタの這う一見古めかしい建物であった
しかし、中はしっかりと綺麗にされており、居心地がよかった

「どうぞこちらに」と男がすすめてきた椅子に座ると、すぐに紅茶が差し出された
「おー? 梅ヶ枝が客を連れてくるなんて珍しいじゃねぇか」
紙の束を抱えた少年がすれ違いざまに言う。いや、あれは少年に見えるが少女である
「ちょうどそこでお会いしましてね」
梅ヶ枝、と呼ばれたフォーマルウェアの男は笑い返した

「さて、梨沢様。さっそくではありますが、私どもの話を聞いていただけませんでしょうか」
梅ヶ枝の申し出に、梨沢は頷く
「私ども、即ち、私を筆頭とした社員たちは、皆、ただものではないのです。正確にいうなれば、貴方と同じく「異端」の烙印を押され、人々から追い出された存在」
梨沢は驚かざるを得なかった
自分のような人間が、こんなにも近くにいると思わなかったのである

「私どもはそういった方々を集め、社会の役に立つ何かを行おうとしているのです」
「社会に見放されたのに、尚も社会のために動く、だと?」
「その通りです。ですから、その協力をしていただきたいのです。いわば、スカウト、といったところでしょうか」
梨沢は僅かに眉間にしわを寄せながら言った
「……あんたら、何者なんだ」

「私どもは「異端」な「探偵」、「異探偵」でございます」



「梨沢ー、鬼才ー、登録はもう済ませたんかー?」
真苅の声に二人は頷く
「今しがた完了したところだ。今日からまた、お世話になるよ」
「……よろしく」

「よーし! なら今からお祝いにどっかに食べにいかねぇ?」
柿本の提案に、梅ヶ枝がのった
「でしたら、以前白様のおっしゃってた岐阜タンメン。あれを頂いてみたいのですが」
「祝い事にタンメン? おもしろいね。わるくはないよ」
「……おなかすいた」

「ほな、皆でいこうで!」
真苅を筆頭に一行が移動していく
その中に混じる梨沢は思った
ああ、こういうのも、わるくはねぇな、と



これは、ちょっと別の世界での話