バ科学者のノート 2冊目

小説をただひたすらに書いていく

73 騙し討ち

「珍しいな、お前からこっちに来るなんてよ」
そういいながらハシモトはミツミを裏事務所へ迎え入れた
相も変わらず、第一印象の割に物がない事務所である

ミツミは最初にハシモトに出会った時から、借金を擦り付けた者の正体をつかむように依頼していた
もう数年前の話になるが、定期的にハシモトの方からミツミに報告をいれていたのである
実際、ミツミがこの事務所に入るのは通算で2度目であった

「僕の方で運よく手が空いてね。いつも来てもらうのも悪いじゃないかと思って」
「相変わらず人がいいことで」
ヒヒッとハシモトは笑うと、中央に据え置かれたテーブルにミツミを案内した

「仕事の方はどうだ。いい加減慣れたか」
「いやぁ、さすがに真人間あがりだと深夜営業の患者は手ひどいものが多くて正直まだ慣れないよ」
半分は本当だが、半分は嘘であった
実際、表世界の人間に疑われないように口裏をあわせて理由づける程度には余裕がでていた

「そんなことよりもハシモト、あれから進展はあったのかい?」
「ああ、それなんだが。確か資料が……」
そう言ってハシモトは棚の方に移動する

「あれ、何処に行ったっけか」
一人でそんなことをぶつぶつと呟くハシモトを見ながら、音もなくミツミは立ち上がった
左胸に右手を当てる。右手が沈む
現れたのは、やや大きめのスパナ。「修復」を意味するミツミの心器である
彼は音を立てずにハシモトの背後によると、生唾を呑んだ

そして、右手に持っていたスパナを、振り下ろしたのである